骨髄の間葉系幹細胞(Mesenchymal stem cell; MSC)は骨・軟骨・脂肪への分化能を有する組織幹細胞であり、CXCL12やSCFといったサイトカインの産生を介して骨髄造血を支持する、「ニッチ細胞」としての機能も持つ。これまで急性や慢性のものを含むストレス負荷後にこれらMSCがどのようにストレスに応答し、幹細胞機能やニッチ機能が変化するかについて取り組んできた。 ストレス応答のマスターレギュレーターの一つであるp53遺伝子はMSCの幹細胞機能の維持や腫瘍化を制御することがin vitroの培養系や細胞株を用いた先行研究より報告されてきたが、生体内での機能やニッチ機能への関与については不明であった。 申請者はp53遺伝子をMSC特異的に欠損するマウスPrrx1-Cre::Trp53fl/fl (p53ΔMSC)マウスを作成し、p53が加齢の過程でMSCの腫瘍化(間葉系由来の軟部肉腫発症)・幹細胞機能の維持に重要であること、p53はニッチ機能の維持には関与しないことを見出し、2023年度にStem Cell Reports誌に報告した。本研究は、MSCを介した腫瘍形成過程の理解を進めるとともに、肉腫研究のための有用なモデルを提供する。 さらに現在は、放射線や抗がん剤といった急性ストレス下でMSCのニッチ機能を維持する機構について取り組んでいる。急性ストレス負荷後にMSCからのニッチ因子の産生が一時的に低下したあとに回復することを見出し、この現象を模倣したin vitroの評価系を開発した。今後はさらに、独自に開発した評価系を用いてMSCのストレス応答機構・ニッチ機能の維持機構を明らかにする。
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