研究実績の概要 |
ポリジメチルシロキサン(PDMS)は生体適合性が高く、医療器具や医工学でよく使われるバイオマテリアルである。PDMSは高い伸縮性ももつため、細胞に外的刺激を与えながら培養する伸展培養においてもよく使われる。一方で、PDMSは疎水性が強く細胞接着性が低いため、細胞培養の際には細胞外マトリックスタンパク質(ECM)を表面にコーティングし親水化させる。従来の研究から、ECMのコーティングは物理吸着よりも化学固定の方が細胞接着性が向上することがわかっているものの、伸展培養系においてECMをPDMSに化学固定した研究は極めて少なかった。そこで我々は、タンパク質をPDMSに化学固定し、表面のコラーゲン量とマウス筋芽細胞C2C12の細胞増殖性を伸展培養系において評価した。その結果、化学固定により表面のコラーゲン量が安定して存在し、伸展刺激による細胞剥離が抑えられていた(Kazuaki M., et al., Biomacromolecules 2023, 24, 11, 5035-5045)。加えて今年度は、この化学固定手法を用いてマウス筋芽細胞C2C12を分化培地での伸展培養を行った。この系においても物理吸着ではC2C12は1日で剥離してしまうが、化学固定では剥離しなかった。続けて、分化培地での伸展培養1日後のミトコンドリアの形態とMyogenin(分化マーカー)の発現量を確認した。ミトコンドリアは伸展させていない群と比べて、ミトコンドリアネットワークが複雑化し、配向性を形成するような結果が得られた。一方で、Myogeninの発現は変わらなかった。そのため、3~5日間といった長期間にわたる分化培地での伸展培養を行い、Myogeninの発現量が変化するタイミングを調べる必要がある。 また、この系を用いてカンナビノイド受容体CB1の筋分化とインスリン抵抗性における役割を検討していく。
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