本研究は、動物倫理において中核的役割を果たしうる「福利」概念と「ニーズ」概念の分析を通し、人間を含む倫理的営み全体の原型としての動物倫理のあり方を探究することを目的とし、(1)福利概念の中核的意味の明確化、(2)ニーズ概念のもつ客観的側面と関係的側面を両立させる議論の構築、(3)福利概念とニーズ概念に基づく倫理的枠組みの構築と具体的事例の検討、という3つの課題に取り組んできた。 今年度は、課題(3)として、福利概念とニーズ概念に基づく倫理枠組みの妥当性と意義を、具体的事例と照らし合わせながら検討することに取り組むとともに、昨年度新たに得られた観点をもとに、私たちがもつ動物理解にたいして影響を与えうるさまざまな要素の分析を続けた。とくに、福利と混同されやすいと考えられる動物福祉(ウェルフェア)に注目する立場との違いに焦点を合わせることで、動物にとっての幸福をどのように理解すべきかという問題に取り組んだ。これらをもとに、畜産動物の扱いを事例として福利概念の役割を検討することで、動物の福利について動物の死の問題をも含みこむ形で検討する必要性を明確化し、論文「動物をめぐるウェルフェア論の問題と福利概念の役割」にまとめ、公表した。 本研究を通して、福利やニーズという倫理学上の基礎的な概念を用いた動物倫理のアプローチが、社会における動物理解をより適切なものへと変容させる役割を果たしうることや、それゆえに動物の法的な扱いをめぐる議論においても役割を果たしうることを明確化した。
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