研究課題/領域番号 |
21J01155
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 麻布大学 |
研究代表者 |
吉本 翔 麻布大学, 麻布大学大学院 獣医学研究科 獣医学専攻, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | T細胞 / CAR-T細胞 / 疲弊 / スイッチレセプター / 腫瘍 / イヌ |
研究実績の概要 |
令和3年度は、イヌのキメラ抗原受容体発現T(CAR-T)細胞を疲弊状態へと誘導すること、及び疲弊状態にあるイヌCAR-T細胞に発現する受容体を明らかにすることを目的として実験を行なった。 まず、イヌCAR-T細胞に持続的な抗原刺激を与えるために、標的抗原を発現するがん細胞株との共培養を繰り返した。イヌCAR-T細胞に繰り返し抗原刺激を与え続けると、イヌCAR-T細胞の機能は徐々に低下し、疲弊の初期段階と考えられる状態へと移行した。次に、疲弊を誘導する過程でイヌCAR-T細胞の細胞膜上に発現する2つの受容体(X, Y)を同定することに成功した。追加実験として、受容体Xに対するリガンドLx及び標的抗原を強制発現させたがん細胞株を作製し、イヌCAR-T細胞を共培養したところ、イヌCAR-T細胞の機能(細胞増殖能、脱顆粒マーカーの発現など)が抑制するという所見も確認された。 以上より、令和3年度の研究目的は達成することができたといえる。これまでに得られた実験結果は、CAR-T細胞の治療効果を減弱させる要因の一つとして考えられるCAR-T細胞の疲弊という現象の一端を明らかにするものである。 令和4年度以降の実験計画に向け、疲弊CAR-T細胞に発現する受容体Xの細胞外ドメインと共刺激分子CD28のシグナルドメインをキメラ化したスイッチレセプターの設計も既に完了している。今後、スイッチレセプターを遺伝子導入することにより、CAR-T細胞の疲弊を防ぐことができるか否かを調べていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画以上に進展している理由は以下の3つである。 1)イヌCAR-T細胞を疲弊状態に誘導するための条件検討が想定以上に早期に完了したため。 2)ヒトやマウスのT細胞の疲弊に関する近年の報告を参考に、疲弊状態にあるイヌCAR-T細胞に発現する受容体の候補を絞ることができたため。 3)疲弊の誘導に関連する受容体を同定する実験において、当初の計画による手法ではなく、より効率的であると考えられる手法に変更したため。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度は、1)スイッチレセプター(SR)を導入したSR-CAR-T細胞を作製すること、2)SRを導入したCAR-T細胞が疲弊誘導シグナルを活性化シグナルに変換する(スイッチ機能)を有すること、3)SR-CAR-T細胞が疲弊することなく、がん細胞を攻撃し続ける能力を有すること、の3つを明らかにすることを目標とする。 具体的には、抗CD3/28抗体磁気ビーズによりイヌT細胞を刺激し、レトロウイルスベクターを用いてイヌT細胞にSRとCARを遺伝子導入する。導入後6日目に、SRを構成する受容体Xの細胞外ドメインに対する抗体を用いて、イヌT細胞にSRが発現することを明らかにする。次に、受容体Xに対するリガンドLxを加え、細胞増殖能、エフェクター機能(サイトカイン産生能と細胞傷害能)、共刺激分子の下流シグナル分子の発現・リン酸化を評価し、SR がスイッチ機能を有することを明らかにする。最後に、作製したSR-CAR-T細胞に標的抗原を発現するがん細胞株により持続的に刺激し、SR-CAR-T細胞が疲弊することなく、がん細胞を攻撃し続ける能力を持つことを明らかにする。 以上の実験が予定よりも早く完了した場合には、当初の実験計画で令和5年度に実施する予定であったマウス実験に移行する、もしくは受容体Yの細胞外ドメインと共刺激分子CD28のシグナルドメインをキメラ化したSRを設計し、同様の実験を行う予定である。
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