運動学習やそれに関与する反応抑制機能に重要な皮質-基底核ループの時間的変動を評価できる新たな手法を確立するために、まず、反応抑制機能を構成する抑制能力を測定できる課題の評価方法を確立することが必要であった。2022年度は、反応抑制機能を構成する3つの抑制能力のうち、反応遅延と反応保留を測定する課題の評価方法を確立することを目的とした。2021年度に、もう1つの抑制能力である反応中止の評価方法を確立し、感覚モダリティによる違いを明らかにした。しかし、他の2要素については、1)反応遅延と反応保留の評価方法が確立されていない、2)視覚・聴覚・体性感覚モダリティの3つで比較がなされていない、3)Go/No-go課題に刺激反応適合性が考慮されていない、という方法論的問題点により、感覚モダリティによって異なるか否かについては議論の最中であった。そのため、2つの要素を区別して評価できる新たな指標および実験パラダイムを作成し、実験を行った。 成人男女20名を対象に、視覚・聴覚・体性感覚刺激を用いた単純反応課題とGo/NoGo課題(GNT)を実施した。各課題におけるGo刺激に対する反応時間の差分を計算することにより、反応遅延を評価し、GNTにおけるエラー率により反応保留を評価した。 その結果、視覚モダリティにおいて、反応遅延が生じにくく、反応保留が優れていることが明らかとなった。本結果は、反応抑制機能、特に順行性抑制を評価するうえで、反応遅延と反応保留を切り分ける必要があることを示唆し、本年度新たに作成した課題を用いることで、反応中止同様に、それぞれの感覚入力に対する純粋な反応抑制機能を評価することができることが明らかとなった。
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