研究課題/領域番号 |
21J23221
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 長浜バイオ大学 |
研究代表者 |
梅田 知晴 長浜バイオ大学, バイオサイエンス研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | ポリリン酸 / 出芽酵母 / 分裂寿命 / 細胞増殖 |
研究実績の概要 |
ポリリン酸は、細菌からヒトにまでみられる数個から数千個の無機リン酸が連なった高エネルギーリン酸化合物であるが、近年、様々な細胞機能の調節に関与することが報告されている。研究代表者のグループは、出芽酵母において、ポリリン酸を高度に蓄積させると分裂寿命(一つの細胞が死ぬまでに生む細胞の数)が短くなることを見出した。ポリリン酸は液胞で合成され蓄積するが、出芽酵母は液胞に加えて細胞質にもポリリン酸分解酵素をもつ。ポリリン酸高蓄積株において、細胞質のポリリン酸分解酵素遺伝子を過剰発現させると、分裂寿命が回復した。本研究では、細胞質ポリリン酸の増加が分裂寿命に悪影響を与えるという仮説を検証し、ポリリン酸の蓄積による短寿命の原因を明らかにすることを目的とした。 細胞質にポリリン酸を増加させるために大腸菌ポリリン酸キナーゼEcppk1遺伝子を発現させた野生型酵母株は顕著に短寿命となり、細胞増殖が遅延した。この株を用いて短寿命に関与する因子を知るために増殖遅延を指標として多コピーで抑圧する遺伝子のスクリーニングを実施し、増殖を回復させた遺伝子を分離したものの、その抑圧効果がEcppk1遺伝子を挿入した遺伝子座近傍の発現異常に起因することがわかった。そこで、Ecppk1遺伝子をプラスミドで発現させる系に変更して再スクリーニングを実施し、いくつかの候補遺伝子を取得した。また、このEcppk1発現株におけるRNA-seq法を用いたトランスクリプトーム解析とCE-MS法によるメタボローム解析を実施した。これらのオミックス解析に共通して、アミノ酸生合成経路での変動が示唆されたことから、今後、詳細な解析を進め、細胞質ポリリン酸の増加による短寿命のメカニズムを明らかにする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度は以下の実験を実施した。 1)Ecppk1遺伝子発現株の短寿命を多コピーで抑圧する遺伝子の探索:Ecppk1遺伝子発現株は増殖遅延を示すので、分裂寿命の代わりの指標として、まず多コピーにより増殖遅延を回復させる遺伝子のスクリーニングを実施した。昨年度、Ecppk1遺伝子を酵母ゲノムに組み込んだ株に酵母多コピーゲノムライブラリーを導入し、正常な増殖に回復するクローンを探索した結果、ミトコンドリアの膜間腔輸送を担うシャペロンであるTIM9遺伝子を同定した。2022年度は、TIM9遺伝子について解析を進める計画であったが、TIM9遺伝子の過剰発現による抑圧効果はEcppk1遺伝子をゲノムに組み込んだ株でしか確認できなかった。その原因がEcppk1の組み込みによる周辺遺伝子の発現異常であったことから、Ecppk1遺伝子をもつプラスミドによる発現系を構築し、酵母多コピーゲノムライブラリーを用いたスクリーニングを再度実施した。候補遺伝子を複数得ており、解析中である。 2)Ecppk1遺伝子発現株におけるオミックス解析:細胞質ポリリン酸の増加による細胞内の変化を知るために、RNA-seq法によるトランスクリプトーム解析とCE-MS法によるメタボローム解析を実施した。トランスクリプトーム解析では、Ecppk1遺伝子の発現によりアミノ酸生合成経路に関する酵素遺伝子群の転写量が上昇していた。また、メタボローム解析では、アミノ酸生合成経路に含まれる代謝物(サルコシン、カルノシン等)が減少していたことから、今後、これらの代謝物による分裂寿命への影響を調査する。
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今後の研究の推進方策 |
Ecppk1遺伝子の発現系をプラスミドに変更したことで、期待通り、既知のポリリン酸ホスファターゼPPX1遺伝子が増殖遅延と短寿命を多コピーで抑圧した。この株を用いてEcppk1発現株の増殖遅延を多コピーで抑圧する遺伝子が複数得られている。これらの多コピー遺伝子が短寿命も抑圧することを確認できれば、これらの遺伝子についてポリリン酸との関与を調べる。特に、これらタンパク質について、ポリリン酸との結合能を調べることで、ポリリン酸が細胞内で標的とする因子を見つけることができる。また、酵母以外の生物種において、ポリリン酸と結合することが知られているタンパク質の酵母ホモログ(例えば、大腸菌Lonプロテアーゼ・ホモログのPim1)についても分裂寿命との関連を調べる。 メタボローム解析により、サルコシンやカルノシンといった代謝産物の減少がみられたため、これらの物質の分裂寿命への影響を調べる。具体的には、これらの物質を含ませた培地にてEcppk1遺伝子発現株の分裂寿命が回復するかどうかを確認する。また、これら代謝産物が増減するような遺伝子破壊株あるいは過剰発現株を構築し、その分裂寿命を調べる。これまでのオミックス解析は外部委託が主であり、解析費用が高額であり複数の試料を同時に解析することが難しかった。本年度は、より詳細な代謝情報と再現性を得るために、学内に設置されている分析装置を利用して解析を進める予定である。 これまでの知見をまとめ、論文報告することを目指す。
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