ポリリン酸は、細菌からヒトまでにみられる数個から数百個の無機リン酸が連なった高エネルギー貯蔵体であるが、近年、様々な細胞機能の調節に関与することも報告されている。研究代表者のグループは、出芽酵母でポリリン酸を高度に蓄積させると、分裂寿命(一つの細胞が死ぬまでに生む細胞の数)が短くなることを見出している。 2023年度は、以下の実験を実施した。細胞質にポリリン酸を増加させるために大腸菌由来のポリリン酸キナーゼEcppk1遺伝子を発現させる株を用いた。以下Ecppk1株と表記する。細胞質ポリリン酸の増加が分裂寿命を短くする原因及び短寿命に関与する因子を知るために、Ecppk1遺伝子発現による短寿命を多コピーで抑圧する遺伝子の解析を再実施し、DDP1遺伝子を分離した。Ddp1pはジアデノシン・ジイノシトールポリリン酸ホスファターゼであり、分裂寿命への関与を見出した。Ecppk1遺伝子発現による短寿命を抑圧する遺伝子変異の解析については、使用していたKOコレクション株に問題が見つかり、スクリーニング実験を継続することが困難であった。 また、これまでに作製したポリリン酸高蓄積株における表現型解析を実施し、ポリリン酸高蓄積株における液胞の肥大化や酸化・金属ストレスへの感受性などを見出した。これまでの知見は国際学術雑誌FEBS Lettersに掲載され、国内で2件、国外で1件の学会に参加し発表した。 本研究ではこれまでの出芽酵母を用いた研究成果を発展させるために、分裂限界をもつヒト初代培養細胞での実験を計画していたが、ヒト初代培養細胞でのポリリン酸定量のための実験条件を確定することができなかった。酵母以外の他の生物種におけるポリリン酸による細胞寿命への関与および老化に伴うポリリン酸量の変動は興味深く、今後の研究が期待される。
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