研究実績の概要 |
本研究では, 金星大気スーパーローテーション (SR) 変動要因を解明と, SR 形成機構の全体像理解を目指す. そのために, (A) 惑星波 (Rossby波やKelvin波) の消長が引き起こす紫外アルベドと大気加熱の変動の定量的評価, (B) 惑星波がもつ熱・運動量輸送の定量的評価, (C) 大気加熱の変動が子午面循環 ・熱潮汐波を介して金星 SRに与える影響の定量的評価, を観測データと数値モデルの比較横断的な解析から実施する. 本年度は、これまでに蓄積された金星探査機「あかつき」リモートセンシングデータの解析に重点を置きつつ金星大気GCMを用いた数値実験環境の構築を実施した. 観測データ解析では, 惑星波による風速と温度擾乱の詳細を調べた結果, Rossby波によって顕著な南北熱輸送が引き起こされていることを発見し, その効果を運動量輸送と合わせて初めて定量的に評価した (投稿準備中). Rossby波同様, Kelvin波の構造に関しても解析が進み、Rossby波とKelvin波という金星雲頂部で最も重要な短周期擾乱に関する理解が進んでいる. 一方の数値実験研究については, AFES-Venus GCM を用いて惑星波などの波動と子午面循環によって流物質輸送を調べ, 未同定紫外線吸収物質の初期高度分布や時定数をパラメータとした数値的な解析実験を実施する準備を行い, これによって観測で見られた金星雲頂部での紫外線アルベドの時空間変動の再現が実施できる段階にまでなっている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度の申請者の「あかつき」観測データの解析からは, 2017年夏に見られた惑星波 (Rossby波) が運動量輸送だけでなく南北熱輸送に関しても重要な役割を担っていることが初めて明らかになった. 一方で, 所属する研究グループ内でAFES Venus GCMを用いた単独の数値実験研究が進み (Takagi et al., 2022, JGR), 新たに金星雲層内で励起される惑星波の3次元構造とその時間発展に関して観測と非常に整合的な結果が得られるようになったことで, 理論的な考察が大きく進展した. このため, 金星雲頂部で見られる短周期擾乱について今一度「あかつき」データの他の観測時期についても精査し, 波動現象の観測的理解を整理することの意義が大きくなってきた. 以上の理由から, 数値実験に比べて観測データ解析への研究の比重が大きくなってしまったことで, 今年度当初の研究計画からはやや遅れた状態となっている. また, 新型コロナウィルスによる在宅研究日数が増えたことも, GCM数値実験の開始を円滑に開始する上での妨げとなってしまった.
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今後の研究の推進方策 |
今年度成果としてまとめている2017年夏に見られたRossby波による南北熱輸送と同様の現象がどのような頻度で発生するかその再現性について観測的な調査を進める. また, 同様の解析をKelvin波についても適用し, 金星を代表する惑星波であるRossby波とKelvin波双方の時間発展についてまとめる. 同時に, 遅れている数値実験研究に関して本格的な作業を開始する. 金星の雲頂付近に存在する未同定の紫外線吸収物質について, その初期高度分布や時定数をパラメータとし, 惑星波などの短周期擾乱や子午面循環による物質循環の効果をAFES Venus GCMを用いて数値的に解析する. 申請者がこれまでに観測的に明らかにしている金星雲頂部での紫外線アルベドの時空間変動が再現かどうかパラメータチューニングを実施し, これが実現すれば紫外アルベドの変動によって引き起こされる大気加熱の変化について定量的な議論に踏み込む.
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