研究実績の概要 |
2022年迄に申請者は、フェノールの2,6位にcyclenをアミド結合、4位にPEG鎖を介してDNA標的部位を導入したcyclen/DNA標的二核銅錯体は、DNA標的を持たない錯体に比べてがん細胞選択的毒性が向上することを見出し、その結果をDalton Transに報告した。2023年にはDNA標的部位の役割を明確化する為、DNA標的部位と鎖長を変更した新規cyclen/DNA標的二核銅錯体を合成し、PEG鎖の鎖長が短い程DNA切断活性と細胞毒性が向上すること、また標的部位のDNA結合能が高い程がん細胞選択的毒性が向上することを見出した。これらはミトコンドリアに集積し、ミトコンドリアDNAを切断して細胞死を誘導することがわかった。この成果は第17回バイオ関連化学シンポジウムで発表し、ACS Omegaにも掲載された。 さらにビス(2-ピリジルメチル)アミンをアミド結合で導入した二核銅錯体が還元剤存在下でO2の還元的活性化でDNA二本鎖切断(dsb)を大きく加速することを2022年に報告した。2023年は、ピリジルの4位に電子求引性Cl基および電子供与性MeO基を導入したdpa二核銅錯体を開発した。その結果、置換基の電子効果で銅の配位構造が変化することや置換基の疎水性でERとGolgi体に集積してROS生成で細胞死を誘導することを見出した。MeO基錯体はがん細胞中でのみROSを生成し、がん細胞選択的毒性を示したが、Cl基錯体はがんと正常細胞の両者でROS生成し、正常細胞選択的毒性を示した。この成果をInorg. Chem.に投稿した。またQSCC6で発表し、ポスター賞を受賞した。DNA標的部位を導入したdpa二核銅錯体では、還元剤存在下でのDNA dsbが飛躍的に向上した。DNA dsbにはDNA結合状態が重要なことが示唆された。この結果を錯体化学会第73回討論会で発表した。
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