研究課題/領域番号 |
22J20239
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
大澤 晴太 同志社大学, スポーツ健康科学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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キーワード | 脂肪由来幹細胞 / 運動トレーニング / 模擬微小重力 |
研究実績の概要 |
肥満症の改善に有効な運動トレーニング(EX)は成熟脂肪細胞の生理機能のみならず脂肪由来幹細胞(ADSC)の分化能も変化させる。しかしながら,EXがADSCの分化調節機構に与える詳細なメカニズムの解明には至っていない。 近年,幹細胞の分化能変化に重力や力学的負荷を感知する細胞骨格因子のリモデリングが密接に関与することが報告されている。従って, EXによる分化能の変化は細胞骨格因子のリモデリングを介して獲得された可能性が高い。そこで本年度は,ADSCの脂肪細胞分化における細胞骨格の役割に着目し研究を行った。 被験動物はWistar系ラットを用い,非運動(SED)群とEX群を設定し,9週間の持久的運動トレーニングの介入を行った。介入終了後,各群の鼠蹊部脂肪および精巣上体脂肪組織からADSCを回収し,それぞれを1G環境下と模擬微小重力(SMG)環境下で脂肪細胞に分化(皮下または内臓分化脂肪細胞と称す)させ,脂肪分化能の評価を行った。その結果,1G環境下で培養したEX群のADSCの脂肪分化能は,由来する脂肪組織の部位にかかわらず,SED群に比べて低下した。この時、皮下分化脂肪細胞のメカノセンサータンパク質の発現量は,1G環境下においてEX群において増加するが,SMG環境下で得た皮下分化脂肪細胞では、こうしたEX群の影響がほぼ消失することが分かった。これに対して、1G環境下で得た内臓分化脂肪細胞のメカノセンサータンパク質発現量はEX群において減少する傾向を示した。また、1G環境下と比較し、内臓脂肪組織由来のADSCでは,SED群およびEX群ともにSMG環境下で脂肪細胞への分化が抑制されることが分かった。以上の結果から、EXは,脂肪組織の部位にかかわらず,ADSCの脂肪細胞への分化能を抑制するが,その抑制を修飾する経路がADSCが由来する脂肪組織の部位によって異なっていることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は,運動トレーニング(EX)が脂肪由来幹細胞(ADSC)の脂肪分化能に及ぼす影響を明らかにするとともに,EXの効果を修飾する鍵因子としてADSCの脂肪細胞分化における細胞骨格の役割に着目し研究を実施した。その結果,EXは内臓および皮下脂肪組織から単離したADSCの脂肪細胞への分化(分化脂肪細胞)を抑制することが分かった。このEXによる脂肪分化抑制は,皮下分化脂肪細胞においては細胞骨格因子ならびにメカノセンサータンパク質の発現量増加に依存することが明らかとなった。一方,内臓分化脂肪細胞においてはEXによる脂肪分化抑制に細胞骨格因子はほとんど関与しないことが分かった。しかしながら,EXの効果を修飾する因子および経路を見出すことはできなかった。 以上より,内臓分化脂肪細胞においてEXの効果を修飾する候補因子の特定が次年度の研究に引き続き課題として残されたため,達成度はやや遅れているとした。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度は,ADSCの脂肪分化抑制に関与する細胞骨格因子の役割をより明確にする。そのため,細胞骨格の薬理的阻害およびsiRNAを使用しメカノセンサー分子のノックダウンを行い, EXの効果がキャンセルされるか否かを検討する。また,ADSCを進展刺激装置および様々な基質の硬さ(0.2~64kPa)で脂肪細胞に分化誘導を行い,EXによる分化抑制効果を促進できるか否かを検討する。それに加え,非運動群でEXの効果が再現されているか否かを確認する。その後,脂肪分化のマスターレギュレーターであるPPARγの発現に及ぼすメカノセンサー因子との交互作用を明らかにする。 以上の実験で得られた結果を元に,高脂肪食摂取の影響についても解析を進める予定である。
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