研究課題/領域番号 |
22J20301
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
西岡 優彦 同志社大学, 心理学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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キーワード | コリン介在性ニューロン / インターバルタイミング / 背側線条体 / 時間間隔の長さの記憶の獲得 |
研究実績の概要 |
ラットは,ある出来事が生じてから次の出来事が生じるまでの秒から分単位の時間間隔の長さを記憶できる。この記憶を長期記憶へと移行させる固定化には背側線条体内のM1受容体が必要であることが示唆されてきた(Nishioka et al., 2022)。この背側線条体内M1受容体の活性には,背側線条体内のコリン介在性ニューロンの入力が必要であると考えられる。このコリン介在性ニューロンが時間間隔の長さの記憶固定化に関与する可能性を調べるため,時間間隔の記憶獲得に伴うコリン介在性ニューロンの即初期遺伝子の発現を観察したところ,時間間隔の長さの記憶を獲得するに伴って,コリン介在性ニューロンの即初期遺伝子発現数が増加することが示唆された(第82回日本動物心理学会大会にて発表)。これは記憶獲得に伴い,コリン介在性ニューロンは活性化することを意味する。次に,このコリン介在性ニューロンの活動が時間間隔の長さの記憶固定化に必要かどうかを調べるため,背側線条体内のコリン介在性ニューロンを損傷し,新たな時間間隔の長さの記憶を獲得させ,その記憶が固定化されたかどうかをテストする実験を行った。この実験では,背側線条体内のコリン介在性ニューロンを損傷させると,時間間隔の長さの記憶の獲得自体が損なわれることが示唆された(現在論文執筆中)。この結果から,背側線条体内のコリン介在性ニューロンーM1受容体回路は時間間隔の長さの記憶の獲得から形成までの一連のプロセスを担う,総合的な時間間隔の長さの記憶形成の役割を担いうる回路であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題はより洗練された実験手法を用いて,時間間隔の長さの長期記憶形成の神経メカニズムを解明することが主な目的である。 昨年度の結果から,これまで明確に定めていなかったカルシウムイメージング法を用いて観察対象とする細胞をコリン介在性ニューロンに絞ることができる。そのため,想定していた複数の細胞種の観察を行う必要がなくなった。加えて興味深いことに,コリン介在性ニューロンは獲得の段階で時間間隔の長さの記憶形成に関わっていることが分かった。これは本来の「時間間隔の長さの長期記憶形成の神経メカニズムを解明する」という目的を超え,「獲得から長期記憶への移行を含む記憶形成の神経メカニズムに解明」に昇華させうる。よって,より価値の高い研究成果を見いだせる可能性が出てきた。 加えて,カルシウムイメージング法を実施するために必要である遺伝子組換え動物の受け入れ環境の整備も完了した。この手法は特定の入力を受ける細胞の神経活動を観察することを可能とする。よって,神経メカニズム解明のための準備が整ったことを意味する。 加えて新たに考案した手続きを用いるための自作頭部固定装置の課題点の改修を終え,さらにこの装置を複数台用意することができた。この装置の課題点によって,実験の実施に遅れが生じたが,装置を複数台用意したことで,実験実施期間の短縮が見込めることとなった。 しかしながら,実施予定であった遺伝子組換え動物の交配については,遺伝子組換え動物の受け入れのための環境整備に想定以上に時間を要したため,行うことができなかった。 まとめると,本来の研究課題の実施は可能な段階に進み,昨年度の研究からより深い知見を得られる可能性を発見したと言える。装置の課題点により実験実施が遅れたこと,遺伝子組換え動物の交配を実施できなかったことを加味して,区分を(2)とした。
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今後の研究の推進方策 |
推進方策・今年度から本研究は遺伝子組換え動物を用いたカルシウムイメージング法による神経活動の観察と神経活動の操作による実験を以下の点を変更して実施推進する。 ・予定していたADコンバータの導入はリアルタイムで観察データの処理をもとに神経細胞に操作を行う予定だったが,コリン介在性ニューロンの活動の変化は規則的であるため,ADコンバータによる処理を用いた活動の変化の観察は必要なくなったため,行わない。 ・今後の本研究課題は,昨年度の研究結果を踏まえて,対象とする機能を長期記憶に絞らず,獲得を含めた総合的な時間間隔の長さの記憶形成の神経メカニズムの解明を目指すものへと推進する。時間間隔の長さの記憶の獲得についての神経メカニズムの検討は,現状の研究計画実施時に同時に調べることができるため,研究計画の修正は生じない。 ・観察対象とする細胞の特定が完了したことから,想定していた実験実施期間の短縮が見込めるかもしれない。したがって,令和6年度を目途に現在の研究の発展として,時間間隔の長さの記憶形成に関わるコリン介在性ニューロンの神経回路の検討を行う。
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