研究課題/領域番号 |
21J01598
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
佐野 加苗 立命館大学, 総合科学技術研究機構, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | アスパラギン結合型糖鎖 / フリップフロップ / 糖ヌクレオチド |
研究実績の概要 |
本研究では、フリップフロップを高感度に解析するための糖ヌクレオチドおよび糖鎖プローブの合成・プローブと転移酵素の利用によるリポソーム膜表面でのDLO構築・DLOの挙動解析を通じ、フリップフロップ現象の分子機構を明らかにすることを目的としている。 リポソーム上のDLOの挙動を追跡するためには、膜表裏のDLOの組成を厳密に制御した膜反応場が必要である。そこで、 (1) クリックケミストリーにより標識可能なアルキニルタグを糖残基に導入したUDP-GlcNAcプローブを化学合成し、(2) 人工リポソームの表面側へ配向したドリコール-1-リン酸に対し、UDP-GlcNAcプローブを基質としたDolichyl-phosphate N-acetylglucosaminephosphotransferase 1(DPAGT1)の転移反応によりタグ付GlcNAcを修飾、(3) タグ付GlcNAc残基に対し、オキサゾリン化糖鎖を利用してendo-β-N-acetylglucosaminidase(ENGase)の作用で糖鎖修飾する、という手順で膜表面上に選択的にDLOを形成することを計画した。本年度は (1)アルキニル基を導入したUDP-GlcNAcプローブの全合成および、(2)DPAGT1との転移反応の検討を行った。 UDP-GlcNAcプローブを合成するにあたり、ピロリン酸化反応がボトルネックであった。アルキニル基やアジド基などのタグ分子を導入したプローブ合成の先行研究において、ピロリン酸化反応は転移酵素の利用により行われている。この方法では、実験室レベルでの酵素の供給量に限度があることから、プローブを十分量得るには効率的ではない。そこで、化学合成手法に基づき、既存の縮合試薬を種々検討して条件を最適化、UDP-GlcNAcプローブのミリグラムスケールでの供給を達成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、物性上取扱いの困難なUDP-GlcNAcプローブの化学合成を達成した。この化合物は膜反応場を構築する上で、最も鍵になる分子の一つであるため、上記の評価に至った。 GlcNAc- 1-リン酸の構築においては、2位アミノ基をカルボキシベンジル基、1,3,4,6位をアセチル基で保護した誘導体を合成し、続いて還元末端のアセチル基を選択的に除去、ジベンジルフォスフェート基をα-立体選択的に導入、接触水素化反応と脱アセチル化を介して、目的のGlcNAc-1-リン酸誘導体を合成した。続いてGlcNAc-1-リン酸とウラシル-1-リン酸誘導体との縮合を試みた結果、目的のプローブをミリグラムスケールで得ることができた。一方、この反応ではウラシル-1-リン酸同士の縮合反応が副反応として進行し、プローブの収率は10%程度と低収率を示した。今後は、ウラシル-1-リン酸同士の縮合を防ぐことを課題とし、リン酸エステル基のカウンターイオンや縮合剤を変えて反応を検討する。 目的のプローブの合成は達成できたため、続いて、(2)の転移反応に用いるDPAGT1が、アルキニル基を有するUDP-GlcNAcを基質として認識するか確認すべく、DPAGT1の発現を行い、プローブを用いた転移反応を検討中である。
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今後の研究の推進方策 |
今年度はアルキニルタグを有するUDP-GlcNAcプローブを合成できた。今後はプローブを応用し、人工リポソームの表面側に標識化DLOを導入した膜反応場の構築を目指す。その方法として、膜表面側へ配向したドリコール-1-リン酸に対し、プローブを基質としたDPAGT1の転移反応によりタグ付きのGlcNAcを導入、続いてGlcNAc一残基型の遊離オリゴマンノースとENGaseとの転移反応を行うことで、二段階反応で標識化DLOを形成する。 DPAGT1の転移活性を評価するために、界面活性剤を混合した非リポソーム環境で転移反応を検討し、アジド基を有する蛍光試薬をクリック反応により生成物へ導入、蛍光を指標にHPLCなどを用いて定量化を検討する。DPAGT1の転移活性を確認できたところで、合成済みの遊離オリゴマンノース型糖鎖および転移活性の高いENGase改変体を用い、糖鎖修飾を検討する。修飾効率の確認は、pyrophosphataseによりドリコール脂質側を除去、生成物のモノリン酸化糖鎖に対しクリック反応にて蛍光試薬を導入し、蛍光を指標とした定量化を検討している。以上の試みをリポソーム環境でも実施し、目的の膜反応場を構築できるか確認する。
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