本年度は昨年度に引き続き、均一構造のドリコールピロリン酸結合型糖鎖を挿入した小胞体膜環境を調製する手法の確立を目指した。ENGaseの糖転移反応で用いる受容体基質として、N-アセチルグルコサミン(N-GlcNAc)にピロリン酸脂質が結合した糖リン脂質を用い、従来タンパク質上のN-GlcNAcに活性を示すことで知られるENGaseが糖リン脂質を基質として許容するか確認した。ENGaseの基質認識に受容体の脂質部位が影響することを想定し、その影響度を確認するための糖リン脂質ライブラリーを有機化学的に構築した。ENGaseは高い糖転移活性を有するEndo M N175Qを用い、基質の種類や濃度、緩衝剤などの反応条件を種々検討した。その結果、受容体のリン脂質構造が糖転移活性に大きく影響することが確認され、活性の効率化が今後の課題として残された。 本研究の目的は、真核生物の小胞体膜における糖鎖のフリップフロップ現象の機構を分子レベルで解明することであり、3年の研究期間ではドリコールピロリン酸結合型糖鎖の構築に必要な化学酵素的反応の検討まで完了した。具体的な研究成果として、クリック反応で標識可能な官能基で修飾した糖ヌクレオチドUDP-GlcNAcプローブの全合成を達成した他、このプローブ構造の構築に要するピロリン酸化条件の最適化を行なった。続いて本プローブをドナー基質として、DPAGT1が小胞体膜分子の一種であるドリコール-1-リン酸類縁体に活性を示すか検討した結果、非天然型構造をもつプローブでもドナー基質として機能することを明らかにした。続くドリコールピロリン酸結合型糖鎖の構築反応として、ENGaseの糖転移反応に必要な受容体基質の系統的合成および酵素反応の条件検討を上記の通り行い、ピロリン酸脂質構造による基質認識の影響を定量的に確認した。
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