研究課題/領域番号 |
21J22837
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
吉田 圭介 立命館大学, 理工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | 弾性薄膜 / 接触力学 / 形態力学 / しわ / 折り畳み |
研究実績の概要 |
採用1年目は、摩擦基板上のシートにねじり操作を与えることで現れるパターンに関する実験的研究と、これを数値的に調べるための計算方法の検討をおこなった。 まず、エラストマー材料で薄膜を作成し、これが回転基板上で滑ったり静止したりすることでしわや折りたたみパターンが形成される様子を観察するための実験系を作成した。ヤング率やシートのサイズ、厚さが異なる薄膜試料を用いてしわが形成される条件を実験的に調べ、その結果が弾性体力学の理論に基づくスケーリング議論から説明付けられることを示した。また、しわが発生した後の大変形領域で見られる折りたたみ過程を観察し、その形態遷移が興味深いスケーリング則に従うことも確認した。以上の結果を物理学会秋季大会で報告した。 以上の実験だけからは、シートの基盤との接触状態や、その際のシート内部の応力分布を明らかにすることは困難と考え、一般の弾性体や弾性板の力学を記述する基礎方程式(ナビエの方程式や、フェプリ-フォン カルマン方程式)の数値計算に取り組んだ。すでに調べられている弾性基盤上のシートのモデル(Winkler foundation)などに対しては安定な計算に成功したが、本研究で目標としている系は相互作用が複雑な上、計算の安定性条件がそれらよりも厳しいことが明らかになった。そこで、高い安定性が期待できる改善策を考案し、現在その手法の実用性を数値実験的に検証している段階である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の初年度にあたる今年度は、シートと基盤が接触する際に、シートにしわや折り畳みが形成される上で摩擦が重要な役割を果たしていると考えられる問題をいくつか設定して取り組んだ。特に、摩擦がある基盤の上でシートにねじり変位をあたえることでどのようなしわが発生し、その後どのような折りたたみ過程に遷移していくかという問題について、実験的アプローチにより興味深い結果を得ることができた。この実験結果と整合する理論解析もある程度進んでおり、これらの結果は日本物理学会秋季大会で報告済みである。その後は、このシート内の応力場や接触の様子を明らかにするために数値解析に取り組んでいるが、弾性シートの大変形を記述する偏微分方程式の数値的な不安定性や、考えている設定がもつ物理的性質の複雑さがあり、十分な理解には至っていない状況にある。このように、実験的・理論的には順調に進展している一方で、数値解析はやや遅れを取っている状況をまとめると、おおむね順調に進んでいると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
2年目は、第一に、初年度におこなったシートに関する研究の数値解析を進展させる。現在取り組んでいる改善案を試行すると共に、有限要素法ソフトウェアの利用も検討し、シートの応力場や接触状態を明らかにすることに努める。また、シートと外界とのあいだの摩擦接触が誘起する形態遷移や機能創発を明らかにするための基本的な問題をさらに考える。具体的には、狭い空間にシートを拘束し、強いせん断を与える場合や、すでにあるしわパターンが摩擦接触によってどのような変化が生じるかといった問題に取り組む。これらは先に述べたシートのねじり問題に対する数値解析手法の開発の基礎にもなると考えられるので、両者を並行して取り組んで行きたいと考えている。ねじり問題に関しては、実験・理論・数値的な解析を組み合わせた成果論文を執筆し、その他の問題に関しても、今年度中の学会発表や論文執筆を目標としたい。
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