最終年度では、大きく分けて2つの成果をあげることができた。1点目は、自発曲率をもつ梁の接触力学に関する研究である。曲がり梁を摩擦がある剛体基盤に押し付けると、梁の基盤との接触点はスリップするか、あるいはピン止めされる。ピン止めされる場合、梁は摩擦力により拘束され、押し潰されるように変形する。本研究では、滑り条件や、押しつぶしに対する剛性が梁の幾何形状と摩擦係数の2パラメータで制御できることを数値実験と理論解析から明らかにした。摩擦を形態や剛性の制御にうまく活かすための幾何デザイン則を明らかにした本成果は、摩擦散逸を利用した衝撃吸収メカニカル・メタマテリアルの開発や、ソフトロボティクスへの応用が強く期待される。2点目は、重いシートの1点を摩擦がある剛体基盤から持ち上げるインデンテーション試験に関する研究である。この研究は初年度から継続して実施しており、これまでに、突き上げた変位に対する突き上げ荷重の測定実験や、レーザー変位計による1次元形状測定を実施し、シートが基盤から持ち上げられた領域サイズ(隆起サイズ)や荷重と突き上げ変位のあいだに成り立つべき則を実験とスケーリング理論の両面から明らかにしてきた。本年度は、これまでの結果の詳細な理論解析を進めるとともに、シートを高く突き上げた際にひろく観測されるしわパターンを調べるために、新たに3Dスキャン解析を実施した。シートの形態を点群データとして取得し、しわの個数などを定量的に調べた。また、しわの発生機構を理論的に推定し、導かれるしわの個数に関するスケーリング予想が、形状測定の結果と部分的に整合することが確認できた。一方で、シートに働く摩擦力が力学特性や形態形成に対しどのような役割を果たすのかは、これまでの理論・実験だけでは十分な理解を得ることが難しい。これについては有限要素解析も組み合わせた解析を実施している段階である。
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