研究課題/領域番号 |
21J23340
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
有馬 恵子 立命館大学, 先端総合学術研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | 都市のスポンジ化 / フリーランス / 自営業 / 職人的技芸 |
研究実績の概要 |
本研究は、京都市出町エリアを調査地として、都市経済活動の内部において、いかに日常的な経済的・文化的実践が生起し、社会関係や都市空間に働きかけてい るのかを検討することを目的としている。新型コロナウィルス感染症により、当初予定していた調査対象者への聞き取りは一部困難になった。そこで2021年度は、既存の自営業者と、店舗を持たないフリーランス事業者、零細起業家らによる小規模な商いの動態と社会関係を分析する、という調査に切り替えて研究を行った。具体的には、出町の左京区側に位置するシェアサイクル店と喫茶店、上京区側に位置する焼きいも店を研究対象として、フィールド調査を行った。調査の結果、中心市街地がランダムに空洞化する「都市のスポンジ化」により、フリーランスや独立自営業者らの仕事の場が生まれ、地域が変容する実態が確認され た。これらの調査で得られた成果は投稿論文として学術誌に投稿し、現在査読中である。さらにこれまでの研究成果を広く社会に還元するために以下の活動を行なった。 1)京都精華大学デザイン学部建築コースの1回生を対象として、出町桝形商店街に関するレクチャーとフィールド調査をおこなった(2021年11月)。2)京都国際写真祭(kyotographie)が主催するシンポジウムにおいて、京都国際写真祭ディレクターと京都精華大学学長と共に登壇し、研究対象地域である京都市出町における多様な芸術実践をテーマとして討論をおこなった(2021年9月)。3)京都国際写真祭(kyotographie)が主催するワークショップにおいて、出町桝形商店街についての子ども(小学生)向けの資料を作成し、体験型学習の講師を務めた(2021年9月)。 これらの学術的研究と社会活動を通して、研究課題についてのいくつかの重要な論点を深められたと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はとくに文献調査および実施した調査データの精査と再検討を通じた理論構築の面での進展が著しく、研究課題の方法論について、大きな発見が得られた。具体的にはこれまでの研究調査により、零細起業家・フリーランスによる、1)土地や場所と密接に結びついた活動の実態と、2)生活空間に密着した職人的技能の実態と社会関係についての知見が得られた。さらに、3)零細起業家・フリーランスと、既存の自営業者との共同関係を可能にする都市的条件として、4)建築・都市計画学の分野で近年展開されている小さな面積・ミクロな単位での都市社会変動「都市のスポンジ化」の検討が必要不可欠であるという新たな視座が得られた。感染症の流行により、対面での聞き取り調査は当初の予定よりも困難が生じている。しかしながら、他分野における研究蓄積の検討および実地調査を通じて、研究対象地域の現状の把握にかんする調査を進めたため、研究課題を進めるにあたって示唆的かつ応用可能な知見を数多く得ることができた。感染症流行の影響は来年度以降もある程度継続するとみられるが、本研究を完成させるための基礎的な枠組み作りを進めることができるようになったと考える。結果的に、当初の計画を超えた研究方法・研究対象と新たな課題が導かれており、成果が得られている。
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今後の研究の推進方策 |
感染症による研究への影響は今後しばらく継続するとみているが、建築学・都市計画で蓄積された「都市のスポンジ化」との比較検討を行い、研究を遂行するという着想を元に、今後さらに学問領域を問わず広く関連文献を精査していく必要があると考える。あわせて今後は、対象地における諸個人の実践や、零細起業家、フリーランス同士の協働、マーケット(市)の調査を行う。具体的には以下のような研究課題に取り組む。 1)零細性の意味合い:フリーランスや零細起業家がなぜ・いかにして都市を再生産・変容させる原動力となるのか。2)零細であるがゆえの流動性と土着性のパラドックス:いざとなったら移動ができる「セミ流動性」の検討。3)フリーランス(語義:free lance 「自由な槍」)の範囲と定義の検討。4)零細であることと都市のスポンジ化による物理的な「孔」との相互反照性:スポンジ化により孔が空く場所と零細起業家・フリーランスがなぜ、いかなる条件のもとで結びつくか。5)マーケット(市):対象地では不定期で大小のマーケットが頻繁に開催されており、その数は増加する傾向にある。それらのマーケットはなぜいかに誰により担われているのか、マーケットと零細起業家・フリーランスの社会関係を調査する。これらの課題を踏まえて、6)「都市のスポンジ化」について、建築家・都市計画家らとの学術的対話を通して課題を共有し再検討する。 これらの研究課題に取り組み、都市の再生産・社会変容の動態を、日常生活における空間・時間を織り込んだ社会関係として検討する。
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