研究課題
現在までに我々は肥満者の習慣的な有酸素性運動によるNO産生を介した中心動脈の動脈硬化度の低下には運動誘発性マイオカインであるirisinが関与することを明らかにした。しかしながら、心血管疾患において血管閉塞が起こる冠状動脈や脳動脈のアテローム性動脈硬化発症リスクに対する運動効果の機序にirisinが関与するかは明らかでない。本研究では、肥満を伴いアテローム性動脈硬化を発症するモデル動物を用いて、有酸素性トレーニングにより分泌増大したirisinが冠状動脈や脳動脈におけるアテローム性動脈硬化リスクの低下に関与するか否か、さらにその分子機序を明らかにすることを目的とした。肥満を伴うアテローム性動脈硬化モデル動物として高脂肪食にて飼育したApoE欠損マウスを有酸素性トレーニング群(自由回転輪による16週間の有酸素性トレーニング介入)および安静対照群に分割した。野生型マウスであるC57BL/6マウスを健常安静群として用いた。16週間の介入後、採血および組織(骨格筋、脂肪、大動脈血管、心臓、脳)を摘出した。ApoE欠損マウスにおいて血中脂質(総コレステロール、LDLコレステロール、中性脂肪)は増大するが、有酸素性トレーニングにより血中脂質は改善された。Oil Red O染色により血管内の脂肪沈着を評価すると、ApoE欠損マウスにおいて脂肪沈着は増大するが、有酸素性トレーニングにより脂肪沈着が抑制されることを確認した。血中irisin濃度はApoE欠損マウスにおいて低下するが、有酸素性トレーニングによって有意に増大した。さらに、血中irisin濃度と血管内の脂肪沈着は有意な相関関係を示し、有酸素性トレーニングによるirisin分泌変動が血管内の脂肪沈着の抑制効果と関連する可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
本年度はアテローム性動脈硬化モデルマウスに有酸素性トレーニング介入を実施し、有酸素性トレーニングによる血中irisin濃度の増大がアテローム性動脈硬化の抑制と関連する可能性が示唆された。おおむね順調に研究を進められていると思われる。
予定されていた血管拡張応答の検討に必要な冠状動脈血管の剥離・摘出が困難であったため、次年度は再検討するとともに、別の評価方法あるいは大動脈血管での代替え検討を実施する。さらに、有酸素性トレーニングによって分泌したirisinがアテローム性動脈硬化を抑制する機序として動脈血管におけるシグナル経路の活性を検討する。
すべて 2022 2021
すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 3件)
PLOS ONE
巻: 16 ページ: e0259444
10.1371/journal.pone.0259444