研究課題/領域番号 |
22KJ3022
|
配分区分 | 基金 |
研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
西尾 善太 立命館大学, 衣笠総合研究機構, 特別研究員(PD)
|
研究期間 (年度) |
2023-03-08 – 2025-03-31
|
キーワード | フィリピン / マニラ / 都市 / インフラ / 公共性 |
研究実績の概要 |
2023年度は、通勤者やジープニーセクターの連帯とネットワークについての調査を集中して実施し、8月と3月にそれぞれ三週間程度のフィールドワークを行なった。そのため、研究課題の達成に向けて着実に進んでいるといえる。 8月と3月のフィールド調査の内容を概観すると、前者ではコロナ禍でのジープニーセクター内部の再編についてインタビューを実施、後者では通勤者などの多様なアクター間での連帯についてのインタビューを行った。この二つのフィールドワークによって草の根の公共性がコロナ禍によるジープニーセクターの内的な変化と、通勤者の経験が交差するなかで生じてきたことが明らかとなった。とりわけ、150以上の団体での連帯が設立した経緯を聞くことで、通勤者が政治的アクターへと変化しながら、ジープニーの廃止と近代化に対して共鳴と連帯を示した背景を理解することができた。パンデミックにより政府は全ての公共交通機関を停止する措置を行い、通勤者とジープニーセクターは共に甚大な影響を被った。これまでジープニーのストライキは通勤者にとって不便を強いるため、両者は敵対関係と位置付けられてきた。しかし、政府の近代化事業が新型車両へと刷新する場合、運賃の大幅な上昇などが予想されており、MoveAsOneの創設メンバーの一人は「私たちは同じ船に乗っている」と状況を説明した。このような連帯は、通勤者とジープニーセクターが政府の提供する「近代化」に共に抗しながら、自分たちの望むインフラをつくりだそうとする可能性を切り開いている。本研究の課題である「草の根の公共性」とは、従来であれば別様なセクターとして分離されてきた組織や集団間の連帯を解き明かすことにあった。そのため、コロナ禍で生じた新たな政治的アクターである通勤者、そして通勤者によるジープニーセクターとの共闘は、この課題を検討する上で重要な事例を提供しているといえるだろう。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年度には、フィリピンにおいて2回のフィールド調査を実施し、新型コロナ禍でのジープニーセクターの再編や、ジープニーセクターと通勤者との連帯の可能性を明らかにし、順調に研究をおこなっている。これらの成果は、投稿論文として結果を待っている状況にある。 また、シンガポール国立大学社会学部教授で世界的に著名な社会理論家、サイエド・ファリード・アラタスへのインタビュー記事を公刊し、ブックレビューを海外学術誌するなど、研究成果を公刊しているため。
|
今後の研究の推進方策 |
2024年度は、これまでの研究成果を整理し、出版物として公開する予定である。調査としては、1ヶ月程度のフィールドワークを予定しており、その内容も英語論文として投稿する。 また、2024年11月にフロリダ州で開催予定のAmrican Anthropological Associationに参加し、研究成果の公表に努めると共に、学際的なネットワークの構築に尽力する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由としては、2024年3月初旬から下旬にかけて行ったフィリピンでのフィールド調査、並びに3月末の東京への出張によって使い切る予定であった。しかし、その処理が2023年度中に終わらず、繰り越してしまった。そのため、次年度使用額については、2024年度6月には処理が終わる予定である。 2024年度の助成金の使用計画としては、年度中に1ヶ月程度のフィールド調査を予定している。現在のところ、8月あるいは2月ごろを予定している。また、11月にフロリダ州で開催予定のAmrican Anthropological Associationの国際大会での発表を検討しており、そちらの旅費として利用も検討中である。12月に開催予定の東南アジア学会への参加も予定している。また、書籍の購入にも助成金を利用する予定である。
|