本研究は、戦時下日本アニメーションの領域で使われた特殊な言葉「音画」を中心に、その歴史、メディア・思想的な意義を検証するものである。令和5年度では以下のように研究を進めた。 ①1920年代後半から、産業資本、未来派、構成主義の影響を受け、機械が新たな美的対象として注目された。その中、機械による視覚の拡張する「映画眼」を称揚し、視聴覚感覚の「自然」を回復するだけのトーキーを批判する文脈があった。美学者中井正一の論文「機械美の構造」はトーキー批判として解釈されてきたが、本研究は中井の論文「機械美の構造」と「リズムの構造」を再検討することで、彼がトーキーを称賛するために主張した概念「映画音」を機械と生命、無機と有機を統一した集団的な組織形態として解釈した。また、本研究のキーワードである「音画」との理論的類似性と影響関係を検証した。これにより、「音画」理論の理論的、思想的背景が一層クリアになった。この研究成果は、2023年10月に開催された第74回美学会全国大会若手研究者フォーラムで発表し、その後査読論文としてまとめ、第74回美学会全国大会若手研究者フォーラム発表報告集に掲載された。 ②機械美の文脈における「映画音」理論を検証した結果。戦時下において、映像と音の視聴覚関係は個人と集団と同じ組織関係として考えられ、人間や社会の組織方式の変革に繋がると考えられていたことが明らかになった。その文脈を継承した「音画」理論は、アニメーションが持つ独自の視聴覚関係に、個人および集団の感覚と組織形態を変革するポテンシャルを見出した。その実践として、戦時下ではアニメーションを用いたプロパガンダが行われた。この内容は引き続き研究し、論文としてまとめる予定である。 また、本研究の成果を活用して大衆に向けて発信し、アニメーションにおける視聴覚関係をテーマにした評論を商業誌で執筆した。
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