研究実績の概要 |
ビタミンD作用は運動器機能の維持や向上に寄与することが疫学的調査研究により明らかにされている。しかしながら、筋局所でのビタミンD作用がどのような作用機序で運動器機能を維持するのか、また、ビタミンD作用は筋細胞機能に直接影響するかについては明確でない。本研究は、筋組織でのビタミンD作用をとらえるとともに、筋組織の発達や運動機能を維持する仕組みを明らかにすることを目的とする。 本年度は、筋特異的にCreリコンビナーゼを発現するマウスとビタミンD受容体(VDR)floxマウスの交配により骨格筋特異的にビタミンD作用を欠失したモニターマウス(筋VDRKO)を作出し、表現型解析を行なった。その結果、筋局所でビタミンD作用が運動器機能やを失うと、自発運動量が減少し、骨密度や骨量が低下することを明らかにした。ただし、筋量や筋線維横断面積などの組織学的な変化は認められなかった。 筋VDRKOマウスの解析から、筋局所のビタミンD作用は筋機能の維持に重要であることが示唆されたため、C2C12筋細胞を用いてビタミンDの直接的な作用を検討した。C2C12筋細胞への活性型ビタミンD[1,25(OH)2D3]刺激は、筋細胞内のATP/ADP比を低下させた。そこで、ATP代謝(放出、分解)に関与する因子について検討を行ったところ、ATPを細胞外へ放出するコネキシン43のタンパク質発現量は1,25(OH)2D3刺激により増加した。さらに、ATPを分解しピロリン酸を生成するENPP1の発現量が増加し、細胞外液中のピロリン酸濃度も同様に増加した。ピロリン酸はリン酸カルシウム結晶の生成の阻害により、骨や軟組織の石灰化を抑制する。このことから、ビタミンD作用は筋細胞局所でATPの放出と分解を促進し、細胞外液中のピロリン酸濃度を高めることで筋組織へのカルシウム蓄積を抑制し、運動器機能維持にはたらくことが示唆された。
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