研究課題/領域番号 |
20J01093
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 龍谷大学 |
研究代表者 |
旗手 瞳 龍谷大学, 文学研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2024-03-31
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キーワード | 吐蕃 / 敦煌 / 仏教 / 布施 |
研究実績の概要 |
本研究は主に敦煌チベット語文献の分析を通じて、吐蕃(古代チベット帝国)の公権力が支配下にある敦煌の仏教教団及び仏教寺院との間にいかなる関係を構築していたか、その実態を明らかにすることを目的とする。令和三年度はまず、前年度に行った研究内容を論文の形にまとめることを行った。その概要は以下の通りである。 ・公権力が行う布施には「サン」の額で奉献する形態があった。それを受領する仏寺側で大麦(ハダカムギ)や家畜に交換し、さらに吐蕃政府が定める「価格の規準」に則って会計処理が行われた。一方で、幡など現物を奉納する形態の布施も行われていた。 ・仏寺が布施を受領できるように差配した機構は、デカムの大臣とその会計事務局と考えられる。 ・額面としての1サンは現物の銀1サンを基準にしていたと考えられる。BD09637号文書が作成された当時、1サンは大麦(ハダカムギ)に換算した場合,3.19~3.5ケル(6.38~7石)に相当した。 論文は「吐蕃期敦煌における公権力による布施―中国国家図書館蔵BD09637号文書を手がかりに―」のタイトルで、令和四年度中に『内陸アジア言語の研究』に投稿する予定である。 続けて寺院に対する「管理」と「徴発」について検討を行った。吐蕃期の敦煌では、仏教教団に属する僧尼・寺戸について戸籍が、また寺院が所有する財産(穀物や家畜、物品)についての目録が作成されており、吐蕃政府が支配下にある仏教寺院の財産を細かく把握・管理しようとしていた点で、先行研究の見方は一致している。一方で、寺院財産について監査するのみであったか、それとも物品の徴発やあるいは課税が行われたかという点については、研究者の間で意見が分かれている。この点について、二件の敦煌文献(BD09638及びBD09641)の内容から、少なくとも寺院が所有する家畜群に対して、吐蕃の政府が徴発を行っていたと結論した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
前年度に続き、今年度も新型コロナウイルス流行の影響を被った。大学の授業形態の変更等に加え、陽性者発生による学校・保育園の急な閉鎖によって受けた影響も少なくなかった。
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今後の研究の推進方策 |
新型コロナウイルス流行が2022年4月現在も続き、終息の見込みが立っていない。採用前に計画していた海外の図書館での調査については、安全等の面から実現困難であると現時点では判断せざるを得ない。そのため、すでに公開・刊行され、日本国内にいて使用可能な史料を徹底的に利用し、予定していた研究内容を残りの期間で推進していく。 またそれらに加え、寺院が所有する家畜群に対し、政府が徴発を行った背景について漢文文献を通じて検討を進めたいと考えている。 たとえば羊について、次のようなことが読み取れる。S.11454によれば、羊から得られる乳製品(蘇や乾酪)が、飼養する羊のメスの数に応じて上納の対象となっていた。また羊毛に加え、羊が死亡した場合にはその皮が納められており、さらに食用の目的で羊の供出が求められることもあった。さらにP.ch.3028では、新しい羊群をつくり、牧羊人に飼養させたケースを確認できる。その新たに作られた羊群は300ないし400頭という規模の大きいものであった。 また羊は恩賞として賜与される場合もあった。部落使を父に持つ漢人の斉周と言う人物は、羊のほかに馬と耕牛、牝牛を与えられている。寺院に対しても「官施(お上による布施)」の名目で羊が賜与されている(S. 542)。 こうしたことから徴発された羊は、食用や新たな羊群の形成、功績ある者への賜与、さらに寺院への布施などへ回されたことが考えられる。今後は、羊以外の家畜についても検討を加えたいと考えている。
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