令和四年度は五月から三月までの十一ヶ月間、採用中断を行った。そのため、実質的に研究活動に従事したのは四月と、そして採用中断中の一部の時間である。 令和三年度に執筆した「吐蕃期敦煌における公権力による布施―中国国家図書館蔵BD09637号文書を手がかりに―」を『内陸アジア言語の研究』に投稿したが、結果は不採用であった。そのため、再度の投稿を目的として、不備のあった部分について再検討を行っている(継続中)。 一方、前年度の研究において、寺院の所有する家畜群に対し、吐蕃の政府が徴発を行っていたと結論した。その後、家畜群に対する徴発について、さらに深く検討するために、敦煌漢文文書Or. 8210/S.11454に分析を加えた。Or. 8210/S.11454は吐蕃期の敦煌で作成された羊の飼養を記録した文書であるが、先行研究では一部が取り上げられたにすぎず、文書全体が詳細に検討されたことはなかった。録文を作成して、検討を行った結果、羊群管理のために様々な文書が作成されていたこと、そしてすでに先行研究で指摘されていたことではあるが文書の作成年代が795年前後である可能性が高いことが確認できた。その結果をふまえ、敦煌占領の初期に、畜産物確保を目的として、漢人に羊の飼養を行わせる政策を実施したと結論した。なお、この研究内容の一部については採用中断前の四月に、zoomを使った内輪の会で報告を行っている。
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