研究課題/領域番号 |
22J00999
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 大阪電気通信大学 |
研究代表者 |
奥川 あかり 大阪電気通信大学, 工学研究科, 特別研究員(PD) (20899207)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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キーワード | セルロース / 再生セルロース / 親水性 / 小角X線散乱 / 動的粘弾性 / ガスバリア性 / 分子間架橋 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、脱炭素社会の構築に向けて、生分解性のエコマテリアルである再生セルロースがプラスチックの代替えを果たすために、再生セルロースの高すぎる親水性を制御することによって、水による影響を受けすぎない新たな再生セルロースを開発することである。これまでに乾燥状態では高温にあった再生セルロースのガラス転移点が、水によって室温にまで低下することを見出した。これは、水によって膨潤することで十分な間隔ができると、セルロース分子の主鎖全体が分子運動してガラス状態からゴム状態に変化するためである。一方、セルロースは両親媒性ポリマーであるため水だけでなく有機溶媒でも同様の現象が観察され、溶媒の分子サイズが関係していることも明らかになった。そこで本研究では、再生セルロース分子の3つの水酸基の置換度と分子鎖間の架橋及び、表面への吸着による分子運動状態と膨潤挙動及び、吸着挙動を明らかにし、分子レベルでの親水性制御の可能性を検討中である。 本年度においては、再生セルロースの水酸基を架橋し、非晶領域の充填による疎水性への影響を検討した。これは固体構造が異なるセルロース繊維を用いて、濃度を変えて樹脂架橋した試料の水分率を変化させて、室温での動的粘弾性や小角・広角X線散乱を測定することによって親水性制御の可能性を検討した。この成果は現在家政学会誌に投稿中である。 また、再生セルロースのガスバリア性は水によって著しく低下することから酸素透過性への水による影響も検討した。この成果はCarbohydrate polymers誌にて受理された。 その他セルロース食品の応用に関する論文もCarbohydrate polymers誌にて受理された。また研究発表は、家政学会やセルロース学会、高分子学会など国内学会のみで実施し、国際学会は社会情勢により断念した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
生分解性のエコマテリアルである再生セルロースがプラスチックの代替えを果たすにはその高すぎる親水性を制御し、水による影響を受けすぎない新たな再生セルロースを開発する必要がある。そこで、セルロースは水中で物理的な刺激を受けると非晶部分の水素結合が切断し、分子鎖間のずれが起こりやすくなることから、再生セルロースの水酸基を架橋し、非晶領域の充填による疎水性への影響を検討した。今後は膨潤挙動における架橋度合いと水分率依存性との関係を検討予定である。 試料には固体構造が異なる繊維(リヨセル・キュプラ)を用いて、樹脂(ジメチロールジヒドロキシエチレン尿素)濃度を変えて架橋した。この水分率を変化させて室温25℃での動的粘弾性挙動や、小角・広角X線回折測定による結晶構造の解析や、織物の摩耗試験および染色実験を実施した。その結果、再生セルロースの基本構造が(1-10)面に由来するシート状構造の可能性があることが示唆され、親水性の制御にはその初期構造を制御する必要があることが分かった。この成果については現在家政学会誌に投稿中である。今後は天然セルロース由来のフィルムを調整し、比較・検討予定である。 また、セルロースフィルムのガスバリア性は非常に高いことが利点であり、再生セルロースフィルムにおいてもポリエチレンやナイロン、PETよりもガスバリア性が優れる一方、水に濡れると桁違いに低下する。そこで、ビスコース法による再生セルロースフィルム(セロファン)の酸素透過性を検討し、水による膨潤と分子運動の影響を明らかにした。その結果、水によって分子間や結晶間の隙間が広がって膨潤することで自由体積が増えて酸素が透過しやすくなり、これによってセルロース分子主鎖のミクロブラウン運動に必要な空間ができることが示唆された。この成果はCarbohydrate polymers誌にて受理された。
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今後の研究の推進方策 |
1.これまでに分子鎖間を樹脂架橋した再生セルロース繊維を用いて、非晶領域の充填による疎水性への影響を検討してきた。これらは現在、家政学会誌へ投稿中であるが、これに加えて今後は膨潤挙動における架橋度合いと水分率依存性との関係を検討し、2023年度に実施される家政学会及び国際セルロース会議にて報告予定である。 2.再生セルロースフィルムの水による酸素透過性に与える影響については、Carbohydrate polymers誌にて受理されたが、今後は天然セルロース由来のフィルムとしてセルロースナノシートを調整し、固体構造が異なるセルロースの水による酸素透過性への影響を検討し、親水性制御の可能性を検討する予定である。 3.アセテート(ジアセテート)はセルロースの3つの水酸基をエステル化したトリアセテート(酢酸セルロース)をけん化することで得られる。その特性は、比重が軽く、弾力があるうえに、水酸基が疎水性の酢酸基に置換するため再生セルロースより水分率が低く、水濡れ時の強度やヤング率の低下が抑制されることから耐水性が増す。そこでセルロース分子の3つの親水基の置換度合いを変化させて疎水性への影響を検討する予定である。これにはトリアセテートを脱アセチル化することで置換度が異なるアセテート繊維を調製し、室温での動的粘弾性測定や小角・広角X線散回折測定を実施する。また予備検討では極小角側にピークらしきものが観察されたことから繊維方向に存在する微結晶の長さを表す周期との関係を明らかにする。これらの測定には大型放射光施設の装置を利用する予定である。 4.加えて、上記の結果を支持するデータとしてゼータ電位による親水性と疎水性に関わる表面電位の解明や示差走査熱量計によるガラス転移と自由水の存在を確認する予定である。また天然セルロース繊維(麻)の有機溶媒による分子運動状態への影響も解明する。
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