研究課題/領域番号 |
22KJ3044
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配分区分 | 基金 |
研究機関 | 大阪電気通信大学 |
研究代表者 |
奥川 あかり 大阪電気通信大学, 工学研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2023-03-08 – 2025-03-31
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キーワード | セルロース / 再生セルロース / アセテート / 親水性 / 小角X線散乱 / 分子運動 / 膨潤挙動 / ガスバリア性 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、脱炭素社会の構築に向けて生分解性のエコ・マテリアルである再生セルロースがプラスチックの代替を果たすために、再生セルロースの高すぎる親水性を制御し、水による影響をうけすぎない新たな再生セルロースを開発することである。 これには再生セルロースの基本構造を理解する必要がある。古くはHermans等によってプレーンラティス構造やラメラ平面と称される分子シートが再生セルロースの基本構造とされてきた。最近では分子動力学計算や小角X線散乱でもその存在が示唆されている。そこで再生セルロース繊維の分子間架橋による挙動から分子シートの存在を推定した。 次に、再生セルロースの利用の拡大には、その高すぎる親水性を制御する必要がある。これまでに再生セルロースや天然セルロースが水の影響を受けやすい原因を分子運動状態や膨潤挙動から解明してきた。しかし、これだけでは再生セルロースの水による影響を制御できない。今後はセルロース分子のグルコースユニットに3つずつ存在する水酸基の置換度を変化させたアセテート繊維の水による膨潤挙動を明らかにする予定である。 また、再生セルロースは非常に高いガスバリア性を有する。しかし、そのガスバリア性は水に濡れると桁違いに低下することから湿潤による影響を制御しなければならない。これまでに再生セルロースフィルムの水による酸素透過性への影響を明らかにし、そのメカニズムを報告してきた。しかし、天然セルロース由来のフィルムに関しては明らかにされていない。そこでセルロースナノファイバーから得たセルロースフィルムの水による膨潤挙動と酸素透過性への影響についても検討しているところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1) 持続可能な社会の構築に向けて石油系プラスチックに代わるエコ・マテリアルの開発が期待されている。この次世代材料には天然セルロースとまったく同じセルロースで構成される再生セルロースが有力である。これには再生セルロースの基本構造を理解する必要がある。そこで再生セルロース繊維の分子間架橋による挙動から分子シート(基本構造)の存在を、架橋した再生セルロース繊維(キュプラとリヨセル)における小角・広角X線回折の測定と織物の摩耗試験、染色実験の実施により推定した。これらの成果は家政学会誌にて受理され、国際学会(ICC)および国内学会(家政学会)において報告することができた。 (2) 再生セルロースはセルロースを一旦溶解・凝固させたものであることから、その一次構造は天然のセルロースと全く同一であり、得られたフィルムは非常に高いガスバリア性を有することが知られている。しかし、そのガスバリア性は水に濡れると桁違いに低下する。これらを解決するには湿潤による影響を制御しなければならない。そこでこれまでに再生セルロースフィルム(セロファン)の水による酸素透過性への影響を明らかにし、そのメカニズムを検討してきた。これらの成果は2件の国際学会(EPNOE、PCC)において報告を行った。また、セルロースナノファイバーから得たセルロースフィルムの水による膨潤挙動と酸素透過性への影響についても検討中であり、これについては国内学会(日本家政学会関西支部研究発表会)にて発表を実施し、今後の研究および論文投稿につながる成果が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
(1) 今後はセルロース分子のグルコースユニットに3つずつ存在する水酸基の置換度を変化させたアセテート繊維(酢酸セルロース)の水による膨潤挙動と分子運動状態を明らかにしていく予定である。半合成繊維とも呼ばれ、セルロース分子の3つの水酸基をエステル化したもので、トリアセテートをけん化させた酢酸化合物がジアセテート(アセテート)である。ここで、セルロース分子の親水性である水酸基が疎水性の酢酸基に置き代わることから、水濡れ時の強度やヤング率の低下が小さくなり、耐水性や熱可塑性が生じて水濡れによる影響を抑制できる。実際にアセテートの水分率は再生セルロース(レーヨン)より低く、比重は羊毛と同程度に軽くて弾力性がある。そのため、水の影響を受けにくく、洗濯時もしわになりにくく型崩れが少ない。このアセテートの特性を再生セルロースに応用し、水による影響を受けすぎない新たな再生セルロースの開発を目指す。 (2) 再生セルロースフィルム(セロファン)の乾燥時の二酸化炭素バリア性は、ポリエチレンやナイロン、PETより高く、酸素バリア性にも優れている。しかし、水に濡れると桁違いに低下してしまうことから、日々使用される食品用ラップなどを、カーボンニュートラルな素材である再生セルロースで代用することができない。これらを実現するには湿潤による影響を制御しなければならない。これまでにセロファンの水による酸素透過性への影響を明らかにし、そのメカニズムを報告してきた。しかし、一次構造が全く同一である天然セルロース由来のフィルムに関しては明らかにされていない。そこで、セルロースナノファイバーから得たセルロースフィルムの水による膨潤挙動と酸素透過性への影響について検討しているところである。これらの成果はまず2024年度高分子学会年次大会にて報告予定であり、今後は追加実験を実施したうえで論文投稿を進めていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2023年11月1日から2024年3月31日までの計5か月間の期間において産休・育休を取得していたため研究を中断せざるを得なかった。今後は主にセルロース分子の3つの水酸基における疎水性への影響を検討するため、加水分解によって置換度の異なるアセテート繊維(酢酸セルロース)を調製し、水や有機溶媒による膨潤挙動と分子運動状態への影響を解明する予定である。また、セルロースナノファイバーから得たセルロースフィルムの水による膨潤挙動と酸素透過性への影響についても検討を進めていく予定である。
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