研究課題
アタッチメントは,生後12か月までに形成される親子間の安定した関係性のことを指す。アタッチメントの個人差は,子どもが成人した時の人間関係,恋愛関係や育児の質にまで長期的に影響を与える。未来に生きる子どもたちが安定した人間関係を築き,幸福な人生を送れるよう支援するために,アタッチメントとは何なのか,いつからどのような機序でアタッチメントの個人差が生じるのかを科学的に明らかにする必要がある。本研究の目的は,①妊娠期~授乳期の母親の身体感覚の特徴,②妊娠期~産後の母親の身体感覚の個人差と乳児期のアタッチメントとの関連,を実証的に明らかにすることである。妊娠期~産後12ヶ月までの母親と乳児,妊娠・出産経験のない女性を対象に,三つの研究を実施する。研究1では,実験的手法を用いて,妊娠期の女性の身体感覚の特徴を,妊娠経験のない女性(非母親)との比較により検討する(横断研究)。研究2では,母親の身体感覚が,妊娠期から出産後にかけて,母親の身体的・生理的変化によってどのように変遷するのかを実験的に検討する(縦断研究)。研究3では,妊娠期~産後の母親の身体感覚の変遷およびその個人差が,生後12ヶ月までの乳児期の母子間アタッチメントとどのように関連するのかを検討する(縦断研究)。アタッチメントについては,無意識レベルでの身体共有感覚から,母親の意識的な愛着まで包括的に調査する。今年度は,研究①の実験に向けた仮説を立てるために,質問紙調査を実施した。妊娠中の女性300名を対象に,身体感覚,自己の感情への気づき(アレキシサイミア傾向),夫婦関係の質,胎児へのアタッチメント感情などの質問紙調査を行った。分析の結果,身体感覚とアレキシサイミア傾向の個人差が,胎児へのアタッチメントと関連することが明らかとなった。
1: 当初の計画以上に進展している
当初の計画では,質問紙調査の実施を予定していなかったが,今年度は,Covid-19の感染拡大の影響を受け,ヒトを対象とした対面での実験は行わず,質問紙調査を実施した。質問紙調査によって,妊娠中の女性の身体感覚と,自己の感情への気づきの個人差が,胎児へのアタッチメントと関連することが明らかとなった。この結果を論文として成果発表する予定である。
次年度は,今年度に実施した調査の結果を論文として成果発表する。また,今年度に実施した調査結果を踏まえて,実験的な手法を用い,研究①と研究②実施する。妊娠中の女性の身体感覚やアレキシサイミア傾向の個人差とアタッチメント形成の関連について,横断的・縦断的なアプローチで実験を行う。
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Humanities and Social Sciences Communications
巻: 8 ページ: 11
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NeuroImage
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