最終年度の研究成果として、大きくは以下の3点が成果として挙げられる。1点目に、児童養護施設の生活について従来から取り組んでいた「実践」という視角から再検討した。児童養護施設の実践はいわゆる「家族」と比してどのような点で共通しているのかを考察した。関西社会学会にて大会報告を行った。2点目に、児童養護施設における不登校研究に着手した。はじめに現場の状況について情報収集した。職員に予備的に聞き取り、中学生や高校生が暮らす現場の様子を確認した。子どもの学校に行かない(行けない)ことの理由やその過程は多様でありながら、他方で他者からの影響が大きいことが把握できた。さらには、児童養護施設職員の登校規範と施設状況の葛藤、施設外の教育資源が検討されにくいことなどが浮かび上がった。教育社会学会の若手研究者の交流会において報告を行った。3点目に、児童養護施設退所者を対象とした研究への新たな進展があった。児童養護施設を退所したばかりの当事者と交流を続けて、どのような生活を送っているのかを知る過程で人間関係との相互作用や「家族」とつながらざる/切らざるを得ない状況があることが認識できた。データからは「親」に頼ることが出来ない中で「きょうだい」と関係が続いていたり、施設入所することにより「きょうだい」とは大きく異なった生活経験を持つことが見逃されがちであったことに着目した。2024年の家族社会学会で報告予定である。 研究期間全体を通じては、児童養護施設現場における構造的な変容と子どもをめぐるを問題を明らかにした。小規模化した施設の生活状況や自立支援(アフターケア)への力点の変化、施設内でのインターネット利用環境の定着とその影響、支援の個別化と合理化などが挙げられる。これらを元に、児童養護施設に入所した子どもをめぐって結局のところ「何が問題になっているのか」を現在も考究している。
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