本研究の目的は、より正確な共分散予測モデルの構築及び提案モデルを用いたリスク管理手法の構築である。そこで(1)共分散予測モデルの提案、(2)日本市場におけるボラティリティ波及効果の分析に関する研究を実施した。 (1)に関しては(i)DCC-GARCHモデルを高頻度データに適用したRealized DCCモデルに対して実現ボラティリティおよび実現相関の観測誤差を導入したモデルの提案、(ii)サンプルサイズが変数の数より少ないような状況で有効な高次元主成分分析を使用した共分散予測モデルの提案の二つの研究を行い、その成果を論文にまとめた。 (i)では100次元のような高次元行列に対しても推定及び予測が可能な形を維持しつつ、従来のモデルより予測力が優れていることを統計的仮設検定を用いて示した。(ii)ではサンプルサイズが変数の数より小さい場合に焦点を当て、高次元主成分分析と時系列モデルを組み合わせた予測手法を提案した。(i)の研究と同様に既存モデルと予測力を比較し、提案モデルが予測力の観点で有意に優れていることを示した。 (2)に関して、新型コロナウイルス流行前後における日本株式市場の業種間のボラティリティ波及をDiebold and Yilmaz (2012)で提案された指標を用いて分析し、論文にまとめた。本研究で、新型コロナウイルス流行前と期間中では大きく市場のリスク伝播の様子が異なっていることが示されたと同時に、1回目の緊急事態宣言終了後にボラティリティ波及の総量が著しく減少したことを示している。
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