研究課題/領域番号 |
21J01369
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 沖縄科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
真野 智之 沖縄科学技術大学院大学, 沖縄科学技術大学院大学, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | 組織透明化 / 頭足類 / 全脳アトラス / 空間発現解析 / 光シート顕微鏡 |
研究実績の概要 |
頭足類(イカ・タコ・コウイカ)は無脊椎動物の系統の中では最大級の中枢神経系を有する.頭足類の示す複雑な行動は,高度な視覚処理や記憶を要する哺乳類のそれと非常に似通っており,神経システムの収斂進化が示唆されている.したがって,頭足類の神経回路を比較生物学的な視点により調べることは神経システムの普遍的なモデルを探索するうえで大変有意義であると考えられるが,頭足類の脳神経回路の理解は未発達である.本研究の目的は,組織透明化法とライトシート顕微鏡イメージングという二つの最新の技術を用いることで,頭足類の全脳を高精度に三次元スキャンし,頭足類の脳解剖学的な理解を現代的な水準に導くことである.さらに,全脳スケールの免疫染色や in situ hybridization (ISH)を行うことにより,多様な細胞種の空間的分布を明らかにし,ハエ・マウス・ヒトなど他の生物との脳との比較から,脳構造の進化的な解析を行う.このような目的のもと,初年度の研究は大きく分けて次の課題に取り組んだ.(1)頭足類の全脳および全身の透明化手法の探索.(2)光シート顕微鏡を用いた全脳スキャンの実施と最適化.(3)全脳画像データの解析とアノテーション.また,コラボレーションの研究として次のような課題にも取り組んでいる.(4)ISHを行う準備としてのイカ脳のトランスクリプトーム解析.(5)シリコンプローブによる神経活動記録場所を透明化三次元イメージングによって正確に同定するパイプラインの確立.総じて,透明化法とライトシートイメージングを軸に,様々な実験モダリティを統合する枠組みが本年度の研究で大きく前進した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度の研究の第一の進展として,頭足類の全脳および全身の透明化法の検討を行った.OISTのマリンサイエンスステーションで飼育されているアオリイカ (S. Lessoniana) とソデフリダコ (O. Laqueus) を用い,CUBIC・iDISCO・CLARITY・DEEP-Clear など既存の透明化法を適用し,組織の透明度や形態の保持性能,組織染色の可否を評価した.結果として,全脳の透明化には CUBIC/DEEP-Clear 法を改変した手法が有効であることが明らかになった.また,全身の透明化においては,眼の色素の透明化が課題であることが判明した.眼の色素を除去しつつ,組織の形態をよく保持するような手法を引き続き模索中である.透明化の検討と同時に,光シート顕微鏡を用いた全脳・全身のイメージングも行った.核染色を施した脳をイメージングすることで,イカ・タコの全脳を一細胞の解像度で三次元イメージングすることが可能であることが確認された.今後は,免疫染色によりより多様な細胞種をターゲットし,その分布を明らかにするとともに,タコ・イカ・コウイカの多様な種の脳のデータを取得し,比較生物学の観点による解析を行う計画である.また,研究室内のコラボレーションとして,タコ脳からシリコンプローブによる神経活動計測をしたのち,組織透明化を用いることでプローブの位置を正確に同定する実験にも参画している.これにより,神経活動記録と脳の領域を高精度で対応付けることができるだけでなく,脳のアライメントにより多数の個体から得られた記録を共通の脳座標空間に投射し,統合することが可能になる.
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今後の研究の推進方策 |
来年度は研究の新たな軸として,Hybridization chain reaction (HCR)を用いた頭足類の全脳スケールの fluorescence in situ hybridization (FISH) に取り組む.この技術を用いることで,神経細胞種マーカーの脳内の発現分布を三次元で解析し,分子マーカーによる脳領域の同定を行っていく.また, immediate early genes (IEGs) を標的とすることで,外界の刺激や動物の行動に伴って反応する脳領域を網羅的に同定する実験を計画している.IEGs とは,神経細胞の発火頻度に伴って発現が上昇する遺伝子群の総称であり,IEGsの発現量をFISHで測ることで固定された脳組織から,固定される直前の神経活動の様態を計測することができる.IEGsにはc-Fos, EGR, CREB などの遺伝子が知られ,進化的に保存性が高い.よって,研究では進化的な保存をもとに頭足類における IEGs を探索・同定する.そして,HCR-FISHによりIEGsの空間発現分布の定量を行う.
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