本年度は,前年度の研究に引き続き,イカ脳の遺伝子の空間発現を解析するための手法の検討に取り組んだ.まず,10X Genomics社のVisium空間遺伝子発現解析法をイカの視葉に適用した.いくつかの技術的問題点や,ゲノムアノテーションの不完全さによる困難があったが,それらを解決し、視葉の各領域の遺伝子発現プロファイルを網羅的に解析することに成功した.また,Visiumで得られた結果を一細胞レベルで検証するため、HCR-FISH(hybridization chain reaction fluorescence in situ hybridization)による解析にも取り組んでいる。特に、mFISH3Dと呼ばれるHCRと組織透明化法を組み合わせた方法を用いて,組織全体の三次元遺伝子発現を調べている.現在、これらの成果をまとめた論文を準備している。 また,所属研究室内でのコラボレーションの研究として,タコの睡眠についての論文をNature誌に発表した.この研究では,ヒトのREM睡眠と相同性のあるタコの"動的睡眠"状態について調べ,動的睡眠の際に活動が上昇する領域を組織透明化による三次元イメージングを用いることで同定した.同定された領域は垂直葉と上前頭葉と呼ばれる頭足類の脳で記憶・学習に関わる領域であり,今後さらなる研究の発展が期待される.
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