研究課題/領域番号 |
22J00146
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 沖縄科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
林 希奈 沖縄科学技術大学院大学, 海洋生態進化発生生物学ユニット, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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キーワード | 攻撃行動 / 多種共存メカニズム / サンゴ礁 / 同種認識 / クマノミ類 / 宿主イソギンチャク / 色彩パターン / 群集構造 |
研究実績の概要 |
最初に、本研究は、クマノミ類の色彩パターンと同種認識の関係性を調べることにより、サンゴ礁魚類の色彩パターンに対する認知能力やそれらが持つ生態学的な意味を、サンゴ礁域の魚類群集の形成メカニズムの観点から解明することが目的である。本年度は、2022年4月~6月にかけて、カクレクマノミの未成魚(3本の白い横線模様がある)120個体に4種類の模様(無地・白い横線1本・2本・3本)の模型を見せるという実験を行い、それぞれの模様の模型に対する攻撃頻度を調べた。その結果、無地に対する攻撃頻度よりも横線(特に2本線や3本線)の模型に対する攻撃頻度が有意に高いという事がわかった。さらに、自身と同じ模様である白い横線が3本の模型に対する攻撃頻度が最も高かった。また、2022年9月-12月にかけて、カクレクマノミの未成魚40個体に透明な小型ケースに入れた4種類のクマノミ類(カクレクマノミ・クマノミ・トウアカクマノミ・セジロクマノミ)を見せるという実験を行い、同種に対する攻撃頻度と他種に対する攻撃頻度を調べた。その結果、カクレクマノミの未成魚は同種に対する攻撃頻度が最も高いという事がわかった。また、白い横線を持たないセジロクマノミに対する攻撃頻度が最も低かった。これらの実験より、カクレクマノミの未成魚は同種と他種のクマノミ類を識別し、他種に対してよりも同種に対する攻撃頻度が高くなるという事が明らかになった。そして、今回の実験結果より、カクレクマノミは未成魚の段階から白い横線の本数を認識し、種の判別には、特徴的な白い横線模様の本数が用いられている可能性が示唆された。2022年の10月には奄美大島に行き、クマノミ類と宿主イソギンチャクの群集構造を調査した、その結果、奄美大島では先島諸島や沖縄島に比べて、ハナビラクマノミの個体数が多く、カクレクマノミの個体数はかなり少ない事が明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は、水槽実験を主に行っていたが、この実験中に死亡する個体がいなかったため、滞りなく実験を進めることができた。また、この実験で、クマノミ類は未成魚の段階で同種と他種を認識し同種に対して攻撃頻度が高くなること、自身と同じ白帯の本数を識別している事が明らかになり、当初予定していた以上にクマノミ類の色彩パターンと同種認識との関係について、興味深い知見が得られた。この実験結果は、日本魚類学会の年会にて発表を行った。また、奄美大島での群集調査では、当初予定していた地点数よりも多くの地点で、クマノミ類と宿主イソギンチャクの群集データを得ることができた。この調査では、奄美大島のクマノミ類の群集構造が、先島諸島や沖縄諸島と異なっていることが明らかになった。また、昨年度に先島諸島、沖縄諸島、奄美大島で採取したカクレクマノミの尾鰭の一部から抽出したDNAを用いて、RAD-seqの解析を行い、さらに詳細に地域の集団遺伝構造を解析した。その結果、昨年度にハプロタイプ解析を行った時の結果とは異なり、南琉球(石垣島・宮古島)と北琉球(沖縄諸島・奄美大島)では遺伝構造が異なっており、北琉球ではさらに奄美大島の集団と沖縄諸島の集団に分かれるという事が明らかになった。さらに、本年度には、昨年度の実験結果を論文にまとめ、国際誌に掲載した(研究発表欄参照)。以上の事より、本年度の実験・調査は当初の予定よりも順調に進行していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度の調査と本年度の調査より、クマノミ類は特徴的な白い横線の本数により同種と他種を識別し、同種に対してより攻撃を行うという事が明らかになった。また、野外においてもクマノミ類は横線模様に対してより攻撃的であったため、クマノミ類が生息するイソギンチャクには横線模様を持つ魚類は生息していなかった。宿主イソギンチャクはクマノミ類以外にも多くの生物の隠れ場所として機能するため、クマノミ類の色彩パターンによる攻撃行動の変化はサンゴ礁域の魚類相にも影響を与えることが示唆された。しかし、このクマノミ類の色彩パターンによる同種認識能力というのは生得的なものなのか、学習的なものなのかは明らかになっていない。そこで、今後は、水槽と野外の両方で、上記の事を明らかにするべく実験を行う予定である。水槽実験の方では、2種のクマノミ類5匹ずつを10日間同じ水槽で飼育し、その後、対面実験を行った際の攻撃行動を調べ、自身と同じ種しか見た事が無い個体で行った時の結果と比較する。この時、同程度に攻撃する場合は攻撃行動の誘発に経験が重要であることが分かり、異なるならば生得的に同種に対して攻撃する可能性が示唆される。野外実験では、成魚コロニーにおいて、他種との遭遇頻度が異なることが予想されるコロニー間での攻撃行動を比較する。カクレクマノミとハナビラクマノミはどちらもセンジュイソギンチャクを利用するが、この2種は地域によって個体数が大きく異なる。そこで、カクレクマノミの個体数が多くハナビラクマノミの個体数が少ない先島諸島とカクレクマノミの個体数が少なくハナビラクマノミの個体数が多い奄美群島で、カクレクマノミにハナビラクマノミとカクレクマノミの模様の模型を提示し、攻撃行動を比較する。この時、経験ではなく生得的な動機が重要ならば、地域に関係な く、カクレクマノミの模型に対してより攻撃的になることが予想される。
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