研究課題
令和4年度は、グリーンランド北西部のカナック氷河と南西部のイスンガタセルミア氷河において採取された暗色不純物(クリオコナイト)に含まれる鉱物の形態観察および化学組成分析を行った。クリオコナイトの形成者であるシアノバクテリアは、バイオフィルムと呼ばれる粘着性の物質によって自身の周囲に鉱物粒子や有機物を絡ませながら、クリオコナイトを成長させていると考えられている。したがって、その成分や起源を明らかにすることは、近年の氷河融解に大きな影響を及ぼす暗色化現象を理解する上で欠かせない。しかしながら、研究が進んでいるのはシアノバクテリアをはじめとする雪氷微生物の遺伝情報や群集構造に関するものがほとんどで、クリオコナイトに含まれる鉱物の種類や粒径などの詳しい情報は全く明らかにされてこなかった。そこで、走査型電子顕微鏡(SEM)、およびエネルギー分散型X線分析検出器(EDS)を用いてシアノバクテリアに付着する鉱物粒子の粒径と成分を明らかにするため、まず前処理の方法を複数検討し、その手法を確立させた。具体的には濃度の異なるエタノールでクリオコナイトを段階的に脱水し、凍結乾燥した後にSEM観察での帯電を防ぐために蒸着を行なった。分析の結果、シアノバクテリアに付着した鉱物はいずれもケイ酸塩鉱物が9割を占めること、しかしその組成が北西部と南西部の氷河で大きく異なることが明らかになった。両氷河では卓越するシアノバクテリアの種が異なることから、このような鉱物組成の違いが、雪氷藻類の栄養塩条件や群集構造、さらには有機物生産にも大きく影響することが予想され、暗色化拡大メカニズム解明に向けた新たな知見を得ることができた。
3: やや遅れている
氷河上不純物のSEM-EDS分析 の過程で、当初予定していた SEM-EDS分析手法および前処理方法ではうまく観察を行うことができないことが判明した。そのため、SEM-EDS分析の前処理方法を 再検討し、氷河上不純物のSEM-EDS分析をやり直す必要が生じた。
今後は、まずグリーンランド北西部と南西部の氷河上で採取されたクリオコナイトのSEM-EDS観察を引き続き行う。グリーンランドの氷河では、雪氷藻類の生物量および生産される有機物量と、細粒の鉱物量との間に相関があることが示されているが、その組成や種類についてはまだわかっていない。本研究では、走査型電子顕微鏡(SEM)、およびエネルギー分散型X線分析検出器(EDS)を用いてクリオコナイトに含まれる鉱物1粒子ごとの粒径測定および同定を行うことにより、粒径別の組成も明らかにする。さらに、暗色域のクリオコナイトの起源物質である風送ダストと氷体内ダストに含まれる鉱物のSrとNdの濃度分析を行う。ICP質量 分析計を用いてクリオコナイトおよび起源物質中の鉱物に含まれる両元素の定量を行い、申請者がこれまでに分析済みのSr-Nd同位体比とあわせて、異なる起源から暗色域のクリオコナイトに供給される鉱物の混合比を計算する。
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Journal of Glaciology
巻: 69 ページ: 487~499
10.1017/jog.2022.76