研究課題/領域番号 |
21J00316
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 国立天文台 |
研究代表者 |
行方 宏介 国立天文台, アルマプロジェクト, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | 恒星 / 太陽 / 黒点 / フレア / Kepler衛星 / せいめい望遠鏡 / TESS衛星 / ALMA |
研究実績の概要 |
本年度は、まず京都大学3.8mせいめい望遠鏡、西はりま2mなゆた望遠鏡、岡山188cm望遠鏡にそれぞれ観測提案を出し、活動的な太陽型星EK DraとV889 Herを徹底的にモニタ観測した。取得された地上観測の水素スペクトル線Hαのデータを解析し、太陽型星での恒星フレアの解析を行った。その結果、世界で初めて5件の太陽型星スーパーフレア(巨大な爆発現象)の可視光分光観測データが得られていたことが判明した。内1件では、Hα線が青方偏移吸収を示すことがわかり、巨大プラズマ(フィラメント)が噴出していることを世界で初めて検出したことがわかった。この現象は、温室効果ガスや生命構成分子の供給といった形で系外惑星大気に影響を与える可能性があり重要である。本成果は、系外惑星における生命誕生のきっかけになりうる現象の発見という成果から、Nature Astronomy誌に掲載され、国立天文台及び多数の新聞・web記事で掲載された。 次に、内2件のスーパーフレアに関して、フレアのエネルギーがどのように分配されるかを明らかにした。これを太陽フレアと比較すれば、太陽・恒星フレアの統一的な理解につながる。この成果を、速報性を重んじるApJ Lettersにて出版した。また、Hα線の変化についての数値計算により上記の現象の再現を試みており、そのモデル構築の論文を共同研究者として出版した。 最後に、ALMAの電波観測データのアーカイブ探査を行い、活動的な星の電波での光度変動を調査するための解析スクリプトを開発した。電波での観測は、恒星フレアにおける「粒子加速問題」を解く手掛かりになる。本年度では、来年度以降の研究におけるアーカイブデータへの適用のための第一ステップをクリアしたと言える。 また、太陽観測を通して、恒星の放射強度を磁場から推定できる可能性を提案した。現在これに関しては論文を準備中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の目的は3つ(A~C)あった。【研究A】 研究(A)では、恒星フレアの発生条件を探ることが目的である。このために、必要なデータを取得するのが本年度の第一目標であり、可視光・X線において多くのデータを収集できたことから、第一目標は達成できていると言える。また、今年度は黒点の磁場の情報と、太陽を星としてみた時の放射強度を対応付ける実験を行った。これにより、フレアを起こすような巨大黒点の特徴を調べることができる可能性が示唆され、今後恒星データへ適用するための足がかりとなった。このことから、研究(A)は想定通りに進んでいると言える。 【研究B】 研究(B)では、恒星フレアのエネルギー分配を明らかにすることが目的である。電波を通した非熱的電子の推定に向け、ALMAのデータを解析するスクリプトを作成し、アーカイブ探査の基盤を固めることができた。また、可視光観測から非熱的電子を推定するための数値モデルの構築に貢献し、モデルに関する論文を出版した。2, 3年度において研究を飛躍させるための基盤構築に成功したという理由で、本研究は順調であると言える。 【研究C】 研究目的「恒星フレアに伴う噴出現象の有無・性質の解明」は、初年度において噴出現象の有無自体を解明することができ、大きく進展を見せた。本成果に関しては、天文学でもインパクトファクターが高いNature Astronomy誌に掲載され、大きな話題となった。他方、今後の継続観測により発生頻度などの統計的性質の解明が新たな課題として提起された。 これらの研究結果に関して、6件の国際学会発表(内招待講演2件)と3件の国内学会発表を行い、さらに多数の国内研究会で報告した。このように、査読論文4本(内主著2本)の出版に加え、国際学会でも大きな存在感を発揮し、当初予定していた通りに研究は進み、当初の目的の多くを達成できたと言える。
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今後の研究の推進方策 |
研究A~Cにおいて、より多くの観測データの取得が必要である。京都大学3.8mせいめい望遠鏡、西はりま2mなゆた望遠鏡、岡山188cm望遠鏡にそれぞれ観測提案を出し、今後2年間で徹底的に2,3の太陽型星を観測することで、世界で唯一の膨大なサンプルからの統計的研究を行う。また、X線との同時観測により、研究A~C全てをより前に進めることができると考えている。共同研究者V. Airapetian氏(NASA)の協力でX線衛星の観測時間を確保する。 【研究A】 2021年度に得た太陽放射と太陽黒点磁場の対応関係を恒星へ外挿し、恒星の観測スペクトルが再現できるかを検証する。これがうまくいけば、2021年度で確立した手法をより多くの目的に応用できるものと考えている。 【研究B】2021年度に続き、地上・衛星観測で得られた恒星フレアのデータ解析を行う。2021年度は、2例の恒星フレアのエネルギー分配則を明らかにし論文化したが、2022年度はさらに数を増やし統計的な観点でエネルギー分配則の論文を執筆する。 一方、2021年度のALMAアーカイブ探査からは恒星フレアが未検出だったため、2022年度はALMAアーカイブデータでの恒星フレアサーベイも継続するが、加えて、新しいデータを得るために、受入研究者の下条氏と共同でALMA/JVLAへ観測プロポーザルを提出し、自らデータを取得しにいく方針で研究を進める。 【研究C】2021年度で観測された噴出現象を、数値計算や太陽観測とより詳しく比較することを、共同研究者のV. Airapetian氏(NASA)らと共同で行う。2021年度は可視光で噴出現象の検出に成功したが、2022年度はX線での同時観測を通して、噴出現象をより詳細な性質を調査する。もし同時観測に成功した場合は、それを即座に論文化を行う。また、地上観測の継続により噴出現象の発生頻度の調査も行う。
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備考 |
同研究内容について、関連研究機関より報告多数。また、Nature誌による研究紹介もあり(https://www.nature.com/articles/d41586-021-03683-0)。
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