研究課題/領域番号 |
21J00416
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 国立天文台 |
研究代表者 |
吉浦 伸太郎 国立天文台, 水沢VLBI観測所, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | 宇宙再電離 / 電波天文学 / 宇宙論 / 銀河進化 / 宇宙物理学 / 電波干渉計 |
研究実績の概要 |
本年度は、宇宙再電離期の中性水素21cm線の観測に必要な銀河系・系外銀河由来の前景放射除去に向けて、主成分解析やガウス過程回帰の手法による実験を開始した。実験にはオーストラリアの低周波電波望遠鏡MWAの観測データや既存の観測シミュレーションを用いており、特にガウス過程回帰の効率を検証中である。また、MWAだけではなく、他の電波望遠鏡、特に将来計画であるSKA1 Lowのシミュレーションを行うために、GPU(CUDA)を用いた高速な観測シミュレーションの開発を開始した。装置モデルとして望遠鏡のビームの解析的なモデルや既存の電波カタログを取り込んだ。さらに、前景放射である電波天体の高精度なモデル化に向けて、イメージングの実験やスパースモデリングを用いた基礎的なコードの開発が進行中である。また、今後の実験に向けてさまざまな周波数帯のMWAのデータについて、イメージと電波干渉計の観測量であるビジビリティの両面で解析中である。また、継続して行ってきた研究で、赤方偏移15前後の21cm線に相当するMWAの超低周波データ(75-100MHz)を用いた21cm線パワースペクトルの解析を行った。最適なデータの較正方法や慎重なデータ選別を通して、低周波観測に伴うさまざまな困難(特に明るい電波源の取り扱い、地球の電離層、FMラジオなどの人口電波)の影響を軽減することで、過去同じ周波数帯で得られてきた上限値を一桁程度更新し、結果を学術雑誌に発表した。同様に、継続して行ってきた研究で、深層学習を用いた21cm線分布の推定手法の作成を行い、学術雑誌に発表した。遠方のLyα輝線天体(LAE)の分布と21cm線の相関関係を学習することで、LAEの分布から大スケールにおいて21cm線の分布を推定できることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
次世代の大型電波望遠鏡であるSKA1 Lowの建設が始まり、21cm線の解析がますます注目される中、先行機の1つであるMWAのデータ解析に貢献することができた。超低周波でのパワースペクトルの上限を更新した際の解析のノウハウは、将来のMWA Phase IIIやSKA1 Lowの解析の際にも生かされる。また、前景放射の除去は宇宙再電離期以前の21cm線の検出に非常に重要な役割を持つが、MWAのデータやシミュレーションを用いて日本での本格的な前景放射除去の研究を開始することができた。他にも、MWAのデータのイメージングによる解析や独自のシミュレーションの作成など、複数の計画を始めることができた。これらの状況から総合的に判断して、現在のところ計画はおおむね順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
特に現在進行中のガウス過程回帰による前景放射除去、電波観測シミュレーションの開発、MWAデータのイメージング解析を中心に、引き続き宇宙再電離期の中性水素21cm線の研究を進める。ガウス過程回帰による前景放射除去の研究では、MWAに最適なパラメータの設定などを通して、数時間分のデータから過去の上限値を更新することを目指す。シミュレーションの開発では、MWA、uGMRT、SKA1 Lowなど複数の望遠鏡に対応したものを作成し、作成したシミュレーションを用いて、さらに複数の前景放射除去手法の実験に利用することを目標にする。MWAデータのイメージング解析では、イメージングを介したパワースペクトル推定を行う際に最も適切なイメージング設定の調査を行い、21cm線検出に向けたパイプラインを確立する。国際MWAの定例ミーティングの参加など、オーストラリアを中心とした国際共同研究を継続する。また、前景放射の影響をさらに抑えるために、21cm線と宇宙再電離期のLyα輝線天体の相互相関についても取り組む。シミュレーションを用いて、現実的な前景放射と観測系統誤差が存在する中でも21cm線を検出するために、さまざまな統計量を検討し、検出に必要な前景放射除去の精度や感度を推定する。
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