研究課題
本年度は、第二次大戦後以降の旧英領東アフリカ諸国を対象に、シーア派インド系移民の移民史概要をつかむとともに、その障害者福祉活動を網羅的にリストアップし、各活動の歴史を跡付けることを目的とした。年間を通して関連文献のリストアップ、所蔵確認、収集、読解を行い、3月には約2週間英国に滞在し関連する未公刊資料を調査した。在東アフリカシーア派移民の関連文献は、国内には比較的少ない状況がある。これに対して、年間を通じての収集作業でかなり収集した。その読解により理解が深まったことで、シーア派とジャイナ教徒の移民の歴史的位置づけについて、研究計画当初の認識の誤謬が明らかとなった。つまり、シーア派はオールドカマーではなく英帝国内で移動した比較的ニューカマー、対照的にジャイナ教徒のネットワークは古かった。また、シーア派系であるが東アフリカでは「Khoja」と「Bohra」と呼び分けられる集団について、英国において写真や当時の手記等にアクセスしたことで、両者の共通点と差異を整理するための資料はおおむね揃った。英国では他に、欧米によるアクターによる資料として、1.東アフリカにおけるリハビリテーションの実態、2.東アフリカに労働災害法が導入された経緯、3.タンザニア・ウガンダ都市部で救世軍が提供した身体障害者のための施設・サービスについての1970年代以降の実態、に関する未公刊資料を収集した。これらは戦後の東アフリカ障害者福祉史を描くための重要な資料である。この資料の中にも当時関与していたインド系組織名を複数発見した。研究発表は、5月にアフリカ学会で語りに基づく視覚障害者史の記述方法について、1月に『現代思想』寄稿論文として東アフリカ都市の福祉とインド系移民とのかかわりについて、3月にアフリカ研究系公開シンポジウムでダルエスサラーム路上で福祉を受け取る人々の振舞いについて報告した。
3: やや遅れている
文献や史料の収集という点では「順調」と言ってもよい程度の成果をあげることができたが、「シーア住民による福祉活動を網羅的にリストアップ、その活動経緯をまとめる」という目的の達成度で言えば当初の想定より遅れている。第一の理由は、代表者にとってはテーマやトピックが新規的であるため、基礎的な教養を身につけるのに時間を要し、文献の読解の進捗が遅れていることである。実際に取り組んでみて、想像以上に難しく奥行きがあるテーマであることが感じられている。もう一つの理由はより補助的であるが、初年度のため、科研費執行にかかる諸手続きや所属機関で定められた諸手続きに不慣れで、特に年始は調査活動が軌道に乗るまで2,3ヶ月を要した。年度後半に発生する所属機関特有の締切感覚にも不慣れで、事務書類作成に予想以上に手間取ってしまった。
当初の研究計画では、初年度にはシーア派移民、第二年度にジャイナ教徒移民、と調査対象を年度単位で区切っていた。この点は変更し、第二年度は、新規文献調査対象としてジャイナ教徒移民に最も重心を置きつつ、シーア派移民についても、継続して初年度に収集済みの資料の読解を併行していく。初年度を通してある程度文献調査を行った感覚として、インド系移民は必ずしも宗派別に文献上分けられているわけではないので、この調査方法によって、当初の計画よりも現実的かつ効率的に、東アフリカのインド系移民による福祉の展開を捉えられると考える。
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現代思想
巻: 51(1) ページ: 164-172
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