研究課題/領域番号 |
22KJ3103
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配分区分 | 基金 |
研究機関 | 国立民族学博物館 |
研究代表者 |
仲尾 友貴恵 国立民族学博物館, 超域フィールド科学研究部, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2023-03-08 – 2025-03-31
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キーワード | コージャ / 環インド洋 / 英帝国 / タンガニーカ / シーア派 / 社会福祉 / 慈善事業 |
研究実績の概要 |
タンザニアにおける障害者ケアは欧米諸アクターによって牽引されてきたとする「欧米牽引論」を再検討すること、そして、現代サブサハラ・アフリカにおける障害者ケアの成り立ちをより立体的に描き出す新しい方法論を提示すること、を目的とし、このために、タンザニアにおける障害者ケア(障害者の生活にかかわる人的、物質的、経済的援助)について第二次大戦後以降のインド系住民の活動、特にシーア派系住民と新興NGO「ジャイプール・フット」に着眼し、その展開と背景について探究してきた。 第二年度は、新規調査対象としてジャイナ教徒移民に重心を置きつつ、シーア派移民についても継続して研究を深めた。4~7月は、昨年度の調査結果としてシーア派インド系移民による障害者ケアについて概観し(1回口頭発表も実施)、並行して、英帝国の間接統治の発展史に関する書評を執筆(途中で1回口頭発表)した。この作業を経て、本研究のキーワードとして「英帝国」と「コージャ」というより具体的なものを得た。コージャとは、インド亜大陸からのシーア派移民のうち特にタンガニーカや福祉に影響力をもった一派である。8月には現代タンザニアの福祉制度概説を執筆・寄稿し、11月に公刊された。 海外渡航調査は2度行った。①12月から1月にかけて1週間強ダルエスサラームで、インド系移民福祉事業関係者に障害者ケア史についての聞き取りと文献収集を行った。②3月に、東アフリカへの移民送り出し地であるインド・グジャラート州の、アーメダバード市を1週間程度訪問し、ジャイナ教やイスラーム諸派の当地での在り方や、社会構造的に支配的であるヒンドゥー文化との関係について、歴史的遺物や宗教施設の観察・訪問、聞き取り等を通して情報収集をした。 その他の期間は、フィールドで得た資料の整理や文献調査を進め、研究成果を2月に公開ワークショップにおいて口頭発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和5年度は予定通り、インド西部と東アフリカ都市におけるフィールドワークを実施することができた。限られた滞在時間の中であっても、渡航しなければ得られない情報にアクセスすることができ、渡航調査の成果が予想以上にあった。口頭発表の形での成果発表も複数回行えている。他方、論文は、1年に2本という執筆ペースは守れているが、学術雑誌への投稿には至っていない。
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今後の研究の推進方策 |
令和6年度は予定通り、前2年度分の研究成果を突き合わせて総合的なレビューを作成することを主眼に置く。しかしながら、グジャラート州アーメダバードへの渡航調査を経て、東アフリカ都市の状況については、やはり東アフリカ都市において情報収集をする必要と重要性が再認識された。これまでの渡航調査で得た情報を踏まえた、東アフリカ都市における追加調査を予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
第一の理由は、物価高騰の影響により、渡航調査にかかる物品や旅費が見通せない部分が大きかったため、渡航計画時において全体的に経費を抑えて計画したためである。 第二の理由は(こちらの方が実際的な剰余額発生に直接影響した)、諸事情により人件費の拠出を取りやめた場合が重なったためである。タンザニア渡航では、当地の現在の物価事情がわからず、調査助手の謝金の想定を過剰に低く見積もってしまった(渡航前に金額を確定する必要があった)。それに加えて、当地において「書面を介した金銭の授受」が社会理念に照らして調査を妨げる状態が起こり得たため、聞き取り調査相手に予定していた謝金を実際には科研費からは拠出しなかったためである。インド渡航においては、適切な調査助手が見つけられず調査助手への人件費が発生しなかったことと、やはり同様に書面を介した金銭の授受が調査を妨げる可能性があったため、謝金を予定しなかった。
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