研究課題/領域番号 |
22J00871
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
小泉 洸生 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 磁性・スピントロニクス材料研究拠点, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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キーワード | 磁性 / スピントロニクス / 軌道角運動量 / 表面弾性波 |
研究実績の概要 |
本研究では、表面弾性波による局所的な歪を軌道角運動量を有する強磁性体に印加することで、軌道角運動量の変調並びにその制御を目的として研究を行っている。 今年度は、軌道角運動量を有する酸化物磁性体の作製とそれらの表面弾性波基板上へ作製に取り組んだ。これまで表面弾性波を用いたほとんどの研究では室温成膜により多結晶を作製していることがほとんどであったが、本研究の目的の1つである軌道角運動量との関係を調べるためには、表面弾性波基板上に酸化物をエピタキシャル成長させた方が好ましいと考えられる。そこで軌道角運動量を有する酸化物磁性体として、これまで作製報告のある軌道フェリ磁性体CoMnO3とコバルトフェライトに着目した。いくつかの成膜条件を試すことで、これらの物質をサファイア基板とMgO基板上にそれぞれ作製することに成功し、磁気異方性についても先行研究と同程度のものが得られていることから良い品質のものが作製できていると期待される。 これら軌道角運動量を有する物質を表面弾性波基板上へ直接成長させることを試みたが、表面弾性波基板に含まれるリチウムが成膜プロセス中に薄膜まで拡散しており、高品位な薄膜を作ることが容易でないことが分かった。そこで、表面弾性波基板と同じ結晶構造を有する物質を緩衝層とすることで、プロセス中のリチウム拡散の抑制を試みた。様々な物質を様々な条件で試すことで、鉄系の酸化物が非常に良い緩衝層となっており、表面も非常に平坦であることを見出した。来年度は、作製した緩衝層を用いて表面弾性波基板上へ軌道フェリ磁性体やコバルトフェライトなどの軌道角運動量を有する磁性体の作製に取り組む。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、本研究の基本となる軌道角運動量を有する磁性体の作製、並びに表面弾性波基板上にそれらを作製することを試みた。 前者については、強磁性酸化物(軌道フェリ磁性やコバルトフェライトなど)の作製手法を確立し、先行研究と同程度の高品質な薄膜を得ることに成功している。どちらも大きな磁気異方性を有していることから、本研究で重要な想定通りの大きな軌道角運動量を有する磁性酸化物の作製を達成した。 一方、後者については、先ほど確立した手法と同様に薄膜を弾性基板であるLiNbO3基板上に作製すると、プロセスが高温であるため弾性基板中のLiが析出してしまい質の良いエピタキシャル膜ができないことが分かった。そこで、プロセス中のリチウムの拡散を抑えかつ、LiNbO3基板上にエピタキシャル成長可能な材料を探索するため、様々な緩衝層を試すと、鉄系の酸化物(ヘマタイト)がLiの析出を抑制し、非常に平坦な表面となることを見出した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究では、LiNbO3基板上に軌道角運動量を有する磁性体をエピタキシャル成長させることを目指していた。しかしながら、リチウムの拡散が想定していたよりも多く、目的としている結晶構造が維持できないほどに拡散していたため、これを解決するのに時間を要してしまったが、適切な緩衝層の導入により、表面弾性波基板上にエピタキシャル成長させることができることが確認できた。 今後の方針としては、当初の予定通り、表面弾性波基板上に軌道角運動量を有する磁性体を作製し、表面弾性波を印加することで、軌道角運動量の変調をねらう。
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