研究課題/領域番号 |
21J00895
|
配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
新井 大 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 生物機能利用研究部門, 特別研究員(PD)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
|
キーワード | オス殺し / 共生微生物 / Wolbachia / 昆虫 / 進化 / ファージ |
研究実績の概要 |
本研究では、昆虫に感染する共生細菌Wolbachiaが引き起こすオス殺し現象の分子メカニズムおよび獲得プロセスを、Wolbachiaに感染するファージWOに着目して解明することを目的としている。実験計画初年度である2021年度は、チャハマキのオスを殺すWolbachiaの遺伝子機能解析に加え、さまざまな昆虫のオスを殺すWolbachiaのゲノムを解析した。あわせて今後の研究の基礎となる卵インジェクション法や培養細胞を用いたWolbachiaの継代に成功した。具体的な実施状況は以下のとおりである。 ・チャハマキ由来Wolbachiaのゲノム解析および遺伝子機能解析:チャハマキに感染する4株のWolbachia(wHm-a, -b, -c, -t)の比較ゲノム解析から、オス殺しwHm-t株のみがもつファージWO領域が同定された。野外調査により採集されたチャハマキを用いてシークエンス解析を進めたところ、オス殺しwHm-t株は本領域を共通して持っていることが明らかになった。現在は、WO領域に座上する遺伝子の機能解析を進めている。 ・さまざまな昆虫のオスを殺すWolbachiaゲノムの解析:チャハマキのオス殺しwHm-t株以外にリュウキュウムラサキ由来wBol1株、スジマダラメイガ由来wCauA株、およびアズキノメイガ由来wSca株のゲノムを解読した。wBol1株のゲノムからは、WOwHm-t76領域と相動性が高い遺伝子および領域が認められた。 ・卵インジェクション法とオス殺しwHm-t株に近縁なwHm-c株感染細胞の樹立:チャハマキオス殺しwHm-t株と極めて近縁である非オス殺しwHm-c株を培養細胞にて維持・継代することに成功した。現在まで植え継ぎを重ね、wHm-c株を維持している。またチャハマキの魚鱗状卵塊への卵インジェクション法を確立できた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、昆虫に感染する共生細菌Wolbachiaが引き起こすオス殺し現象の分子メカニズムおよび獲得プロセスを、Wolbachiaに感染するファージWOに着目して解明することを目的としている。実験計画初年度である2021年度は、上述の通り、チャハマキのオスを殺すWolbachiaの遺伝子機能解析に加え、さまざまな昆虫のオスを殺すWolbachiaのゲノムを解析できた。あわせて今後の研究の基礎となる卵インジェクション法や培養細胞を用いたWolbachiaの継代に成功した。これらの実験結果は当初の計画通りに進んだため、当該区分の評価とした。
|
今後の研究の推進方策 |
Wolbachia (wHm-t株) オス殺し候補遺伝子の機能解析を引き続き進める。すでに実施中のショウジョウバエ、カイコでの遺伝子機能解析に加え、2021年度に確立したチャハマキでの機能発現系をもとに遺伝子機能解析をすすめる。前年度の手法検討に基づき候補遺伝子(エフェクター)をチャハマキに発現させ、オスとメスの致死率を比較する。オス殺し表現型が再現できた場合、各昆虫種の性決定遺伝子や他の各種遺伝子発現に生じる影響をRNA-seqおよびメタボローム解析から明らかにする。この実験はオス殺しWolbachiaが感染したチャハマキをはじめ複数の昆虫種で検討する。さらに2021年度に引き続き、オス殺し株に加え複数のWolbachia株のゲノムを解析することで、Wolbachiaがオス殺しを獲得した進化プロセスにアプローチする。COVID-19の状況次第ではあるが、2022年度は日本および諸外国(共同研究先の台湾・インドネシアなど)においてチャハマキおよび近縁種に感染するWolbachiaのゲノムおよびWO感染を調査する予定である。Wolbachia移植およびファージ移植についても検討し、オス殺し獲得のプロセスについて研究を進める。
|