本年度は、連続的高次対称性の自発的破れに伴う南部・ゴールドストン (NG) モードがトポロジカルな結合を持つ時に現れうる不安定性を、現実的な模型に応用する研究を行なった。特に時間に依存したアクシオン場の背景でアクシオンに結合したU(1) ゲージ場が指数関数的に増幅する機構であるカイラル不安定性に関して議論した。 本研究では、これまで知られていた初期宇宙の加速膨張を記述する候補であるアクシオンインフレーション模型におけるカイラル不安定性に着目した。この機構を初期宇宙のようなエネルギースケールがプランクスケールに近い理論を記述する枠組みの有望な候補のひとつである超弦理論の有効理論で議論した際に得られる制限を考えた。 本研究ではまず、電磁場の有効作用である Dirac-Born-Infeld (DBI)作用から出発した。この作用には、理論が破綻しないためのエネルギースケールの上限が弦の長さによって定まっている。この上限をカイラル不安定性で生成されたU(1) ゲージ場のエネルギースケールが超えないための条件を議論した。その結果、電磁場のエネルギースケールを特徴づける不安定性パラメータの上限を、弦の長さや余剰次元の体積で与えることができた。 次に、具体的に超弦理論のアクシオンインフレーション模型において生成されるU(1)ゲージ場のエネルギースケールが上述の上限を守っているかを議論した。本研究では、IIB型超弦理論の有効理論を考えた。この有効理論において前述の不安定性パラメータのうち模型に依存する部分は、余剰次元に存在する磁場の大きさで決まるということを示した。そして、上記のDBI 作用から得られる制限を満たすような余剰次元の磁場の典型的な大きさを議論した。また、余剰次元の電磁場に関するガウスの法則から制限される磁場の上限とも整合することを議論した。
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