研究課題
本研究では、植物が菌根菌を認識するメカニズムと寄生植物が宿主植物を認識するメカニズムにおける共通点を分子レベルで解明することを目指している。今年度は寄生植物が宿主植物を認識し接近する屈性のメカニズムに着目し、主にハマウツボ科の半寄生植物であるコシオガマを材料として研究を進めた。研究開始段階までにコシオガマにおける屈性を評価するシステム立ち上げ、宿主の根から放出される植物ホルモンのストリゴラクトン(SL)に対してコシオガマの根が屈性を示すことを明らかにしてきた。今年度はイネに対する寄生実験を行い、コシオガマはSL生合成変異株よりも野生型のイネに対して屈性を示す傾向があることを示した。またコシオガマ以外の植物を用いた実験により、SLに対する屈性がハマウツボ科寄生植物のストライガでも見られる一方で非寄生植物では見られないことを示し、SLへの屈性がハマウツボ科寄生植物に特異的な戦略である可能性を提唱した。コシオガマの根ではSLの左右非対称な認識が行われるが、培地中にアンモニウムイオンが存在するとSLの認識はそのままに屈性が妨げられることを示した。一方SLの左右非対称な認識と同様の局在パターンを示すオーキシン輸送体PIN2について、アンモニウムの存在下では局在が見られなくなることを示し、SLの認識からPIN2の蓄積に至るまでのシグナル伝達がアンモニウムイオンにより阻害されることを示唆した。さらに、外部のSLを認識する受容体の候補を同定し、受容体の機能を阻害すると屈性が抑制されることを明らかにした。以上のように、ハマウツボ科寄生植物はSLを受容することで宿主植物を認識し屈性を示すこと、PIN2の局在を介したSLへの屈性はアンモニウムイオンにより抑制されることを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
当初の研究通り、ハマウツボ科寄生植物における宿主発見のための分子メカニズムの解明を進めた。自身が確立した屈性を評価するシステムを用い、奈良先端科学技術大学院大学の吉田聡子教授らおよびカリフォルニア大学リバーサイド校のDavid Nelson教授らと共同で研究を進めた結果、ハマウツボ科の寄生植物が宿主由来のSLに対して屈性を示す現象の分子メカニズムの一端を解明することに成功した。以上のように、おおむね当初の計画通りに研究が進展している。
先行研究により、イネと菌根菌との共生においては植物を燃焼させた煙から同定されたカリキン(KAR)という低分子の受容体であるKAI2が重要であると示されていた。また自身の前年度までの研究により、ハマウツボ科寄生植物におけるSLへの屈性にはKAI2から改変されたSL受容体が重要であることが明らかになった。これは、研究当初に提唱した「寄生植物はKAR受容体であるKAI2をSL受容体に改変することで、既存の共生メカニズムを寄生に転用するための新たなSLの生理機能を獲得した」という仮説を支持するものである。この仮説をさらに検証するため、今年度は植物が菌根菌を認識するメカニズムに着目し、菌根菌との共生を誘引するシグナルを活性化させる分子の同定を試みる。これまでの研究により、植物体内においてKAI2はKARではなくKAI2 ligand(KL)と呼ばれる内在性の分子を認識しシグナル伝達を活性化させるモデルが提唱された。しかしKLの構造は未解明であり、KAI2シグナルを介した共生の研究において大きな障壁となっている。そこで本年度はカリフォルニア大学リバーサイド校のDavid Nelson教授の研究室に滞在して研究を進め、KLの同定を試みる。Nelson教授らは最近、シロイヌナズナにおいてKAR処理時と同様の表現型を示しKLを過剰蓄積していると考えられる変異体の作出に成功した。そこでこの変異体に対しさらに変異導入を行い、KAR処理時と同様の表現型を失った変異体をスクリーニングすることで、KL生合成遺伝子を同定する。この生合成遺伝子について、過剰発現株および欠損株を作製しメタボローム解析を行うことによりKLの同定を試みる。
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bioRxiv
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10.1101/2022.02.17.480806
https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2022.02.17.480806v1.full