研究課題/領域番号 |
22J40058
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
高瀬 比菜子 国立研究開発法人理化学研究所, 生命機能科学研究センター, 特別研究員(RPD)
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研究期間 (年度) |
2023-01-04 – 2026-03-31
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キーワード | 原始卵胞活性化 / 卵母細胞 / 卵巣 / 顆粒膜細胞 |
研究実績の概要 |
哺乳類の卵母細胞の多くは卵巣中で休眠しており、活性化によって成長を開始する。卵母細胞と周囲の顆粒膜細胞は同時に活性化することから、細胞間相互作用の存在が想定される。本研究では、シングルセルトランスクリプトーム解析を利用して細胞間のコミュニケーションを推定し、活性化に寄与する分子メカニズムを明らかにすることを目的とした。 これまでの成果を基に、顆粒膜細胞ではWNTシグナルの下流で卵母細胞の活性化に関わる機構が働いていると仮説をたてた。本年度の約三ヶ月間では、既に自身が取得済みのデータセットを利用して、7日齢のWNT抑制変異(Wls cKO)マウスとコントロールマウス由来の卵巣についてシングルセルトランスクリプトーム解析を進めた。それぞれのマウス系統卵巣の配列データに対してクラスタリング解析を行ったところ、Wls cKOマウスでは異常な顆粒膜細胞と閉鎖に向かう卵母細胞の集団の存在が推定された。組織学的な所見と一致して、Wls cKOマウスでは顆粒膜細胞の活性化が阻害されており、その二次的な作用で卵母細胞の成長が抑制されていることが示唆された。本解析をさらに進めることで卵胞の活性化と成長にともなう細胞集団の変遷を捉えられると期待される。 顆粒膜細胞系譜について亜集団解析を行ったところ、コントロールとWls cKOマウス由来の共通の細胞集団として、未分化な前顆粒膜細胞が確認された。Wls cKOマウスでも正常な前顆粒膜細胞が存在するものの、活性化が起こってもコントロールとは異なる細胞分化の経路を示すことが明らかとなった。最も活性化が進んだ場合でも、一部の顆粒膜細胞マーカーの発現が低く留まり、最終的にはアポトーシスや炎症性応答の反応が進行することが推定された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請者はシングルセルRNA-seqによるトランスクリプトーム解析を計画立案し、既に得られていたデータセットを用いて解析結果の解釈に努めた。顆粒膜細胞の分化が抑制され、その影響によりおそらく二次的に卵母細胞の活性化についても異常が生じるWls cKOマウスおよび同腹仔である野生型マウスを材料とした。Wls cKOマウスにおける構成細胞の違いを見出し、活性化による顆粒膜細胞の分化が野生型と異なる系譜を辿ることを明らかにした。その一方で、Wls cKOマウスと野生型マウスは共通して未分化な前顆粒膜細胞のクラスターを形成することから、あらためてWNTシグナルの機能は顆粒膜細胞の活性化に寄与するものであることが確認された。Wls変異マウスの顆粒膜細胞で発現変動している遺伝子についてはいくつか候補が得られているものの、解析ソフトウェアのバージョン間の整合性を取るために、一部の解析については再実施が必要である。しかしながら、以上に報告した解析は次年度移行の研究方針の決定に必須の解析であり、おおむね順調に研究が進展したと判断する。
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今後の研究の推進方策 |
まずは全体のデータを用いて各クラスターに対するマーカー遺伝子とDEGの検出について再実施する予定である。検出される遺伝子数は増加する見込みのため、結果は大幅に変わらないと予想されるものの、遺伝子発現ヒートマップ上で各クラスタの遺伝子の発現パターンについて再現性を確認する。次に、検出されたマーカー遺伝子をベースとしたエンリッチメント解析についても再実施を行い、特にWls cKOマウスにのみ観察された異常な細胞クラスタがどのような性質を示すのかについて推察する。さらに、免疫染色もしくはin situ ハイブリダイゼーションによるマーカー遺伝子の検出によってこれらの細胞集団の存在について確認予定である。卵母細胞と体細胞間の相互作用を明らかにするために、周囲の体細胞間とのシグナル伝達機構をCellPhoneDB や CellChatなどのソフトウェアを用いて検出を試みる。最後に、顆粒膜細胞内では亜集団が6つ推定されたが、遺伝子発現の差異が緩やかなことが推定されるため、クラスター非依存的なDEGの予測とエンリッチメント解析を行う。
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