紫外線は皮膚がんのリスク要因である。皮膚がん組織のゲノムでは、ゲノム不安定性と大量の変異が検出される。本研究では紫外線がゲノム異常を起こすまでの過程を明らかにすることを大きな目的として、マウス胎仔線維芽細胞(MEF)の不死化過程をモデルとして解析を行っている。不死化過程ではDNA複製に起因したDNA二本鎖切断 (DSBs)が蓄積している。本年度はDSB生成のメカニズムを明らかにするために研究を行った。紫外線照射によりDNAにはシクロブタン型ピリミジンダイマー (CPD)と(6-4)光産物といったDNA損傷が生成される。DSBマーカーである53BP1 fociが、CPDは残存し、(6-4)光産物は修復されているような時間帯にDNA複製を介して形成されるという結果から、CPDの一部がDSBの原因となり得ることが考えられた。そこでUV損傷の早い修復を担う転写と共役した修復(TCR)の機能を担う因子であるCSBタンパク質をノックダウンし、53BP1 fociの数をUV照射後に計測すると、コントロール細胞より減少していた。この結果からCPDのTCRを介してDSBが生成されることが考えられる。また、UV照射後の53BP1 fociの数の上昇は、転写阻害剤であるDRBの添加により抑制され、UV照射後のゲノム不安定性の指標である微小核の数の上昇も抑制された。これらの結果からUV照射によるゲノム不安定性誘導の促進に転写も関与することが示唆された。研究期間全体としては、MEFの不死化モデルにおいて紫外線が不死化を促進することが明らかになった。その過程では、DSBに起因するとされるゲノム不安定性が生じていること、DNA複製を介したDSBが生成されること、DSB生成には紫外線により生成されたCPDのTCRが関与する可能性があることを示した。
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