本研究課題では,魚類がもつ,水流を感受するための感覚器官である側線系について,受容器(感丘)の形態的多様性を明らかにする.当該年度は,研究対象分類群であるハゼ亜目とテンジクダイ科について約40種を採集し,そのうち特に重要な研究対象種については電子顕微鏡によって全身の感丘の外形と感受方向性を観察した.それ以外の種については断片的に観察し,種間・種内・個体内において個々の感丘にどの程度の形態的差異があるのかの把握に努めた.その結果,ハゼ亜目の観察種において,感丘の方向性は先行研究によって報告された種も含む観察種間でほぼ同様あったが,特に感丘数が多い種においては先行研究で用いられている種にはない感丘列要素が認められた.感丘の外形やサイズについても概ね知見が得られたが,電顕画像においては固定不良や種の特性に起因する変形が認められたため,次年度以降に改めて確認する必要がある. ハゼ亜目の観察と並行して他の分類群における表在感丘の観察も進めた.特にニシン目リュウキュウドロクイを中心的に観察し,本種にみられる駆幹部側線系の状態(表在感丘がよく発達し,ほぼすべての駆幹部鱗上にある)がニシン目の現生種においてにひろくみられるとの知見が得られた.この情報は,今後感丘の形態的多様性の系統的背景を議論するうえで重要となると予想される.
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