研究課題/領域番号 |
22J01445
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 独立行政法人国立科学博物館 |
研究代表者 |
木下 峻一 独立行政法人国立科学博物館, 地学研究部, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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キーワード | 大型底生有孔虫 / マイクロX線CT / 室内飼育実験 / 温暖化 / 海洋酸性化 |
研究実績の概要 |
本研究は、近年の二酸化炭素排出量増加に起因する海洋酸性化が石灰化生物へ与える影響を明らかにするため、サンゴ礁域に生息する大型底生有孔虫を対象に、生育環境の酸性度と殻生産における応答の関係を、飼育実験、マイクロフォーカスX線CT (MXCT)を用いて解析し、海洋の酸性度の石灰化生物への影響を定量的に評価・予測することを目的として遂行中である。 本年度は4回に渡るサンプリングを行った。特に4月末のサンプリングでは飼育に適したクローン個体群を得るため、分裂中あるいは分裂間近と思われる個体の採取を目標としたが、良い成果が得られず、飼育実験は令和5、6年度に持ち越しとした。一方で、大型底生有孔虫と近い環境下で生育するサンゴにおいて幼生個体群を得られたため、予備実験としてサンゴ幼生の飼育実験を行った。生育海水のpHやアルカリ度をコントロールした1ヶ月の飼育により、実験区ごとに石灰化量及びMXCTによる観察で顕著な違いみられた。今回の結果からは、現在進行中の海洋酸性化が有孔虫やサンゴなどの海洋石灰化生物に対して石灰化阻害効果を持つこと、海水においては、単純なpH以上に炭酸塩飽和度が石灰化に重要なパランメータであることが明らかになった。また、令和5年度4月のサンプリングでは大型底生有孔虫でも飼育に適したクローン個体群を得ることに成功しており、今後は大型底生有孔虫での応答を解明するとともに、サンゴとの応答の比較を行える見込みである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は、大型底生有孔虫の多くは1~1.5年サイクルで発生~生殖をおこなっていることを考慮し、年間で4回程度の現地サンプリングを行い、MXCT撮影を行うほか、飼育実験用の母個体も年度初回の現地採集にて採集する予定であった。 サンプリングは冬季(12月)の1回を除き滞りなく遂行でき、標本の採集を完了した。MXCT撮影についても2回目までのサンプリングによって採集された標本の撮影を一通り終え、解析作業を開始しており、自然環境下の水温・酸性度の実際の影響度合や、種ごとの適応状況・適応戦略の解明についてはおおむね順調に進行中である。 一方で、飼育実験については4月末のサンプリングで飼育に適したクローン個体群を得られず、令和5、6年度に持ち越しとなった。ただし、大型底生有孔虫と近い環境下で生育するサンゴにおいて幼生個体群を得られたため、予備実験としてサンゴ幼生の飼育実験を行い、現在進行中の海洋酸性化が有孔虫やサンゴなどの海洋石灰化生物に対して石灰化阻害効果を持つこと、海水の炭酸飽和度が石灰化に重要なパランメータであることを明らかにした。また、令和5年度4月のサンプリングは既に実施済みであるが、令和5年度においては飼育実験用のクローン個体群を得ることに成功しており、本年度の進捗の遅れは回復できる見込みである。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度に引き続き現地調査を行うが、調査頻度を高くし、より詳細に季節影響を解析したい。例えば天然で複数のpCO2環境の存在が確認されている硫黄鳥島など、主な採集予定地である瀬底島から周辺地域までサンプリング範囲を広げ、より様々な環境影響・環境応答について解析する。 飼育実験については、大型底生有孔虫での実施が令和4年度に行えなかったため、令和5年度は、まず主要な1~2種について実施する。昨年度のサンゴによる実験の結果、石灰化生物の成長においてはpHだけでなく、アルカリ度の影響が強くなることが想定されるため、pH・アルカリ度の2パラメータをコントロールして行う(水温は一定25℃の予定)。 仙台では、MXCTの撮影のほか、下北半島沖の水深970mの海底(北緯41°33.9’, 東経141°52.1’)から2001年のWEPAMA(IMAGES VII/2001)航海で採取されたコアMD01-2409より化石試料の拾い出しを行う。水温の異なる15層準から同種の有孔虫化石を10~20個体程度拾い出し、MXCT測定によって得られた有孔虫の殻パラメータと環境パラメータの比較により、海洋のpHが現在よりも高かったLGMにおける有孔虫殻パラメータの変動を明らかにする。
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