研究課題/領域番号 |
20J01757
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
龍田 真美子 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 新原理コンピューティング研究センター量子エンジニアリングチーム, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | 量子センサー / 猫状態 / 断熱操作 |
研究実績の概要 |
本年度は、(i)マクロに異なる状態の重ね合わせを用いた量子センシング(猫状態)の新たな手法に関する研究と(ii)対称性に守られた断熱変化を用いた量子センシングの手法に関する研究に携わり、論文を発表した。 (i)センシングではセンサの感度向上が一つの目標で、これにはGHZ状態と呼ばれるマクロに異なる状態の重ね合わせ状態を用意できると理想的である。これまで、GHZ状態を生成し活用するための研究は数多くなされてきたが、それらは量子ビット同士の相互作用を制御しなければならないという難点があった。今回我々は、その難点を克服する新しいプロトコルを提案した。モデルは横磁場のかかった1次元イジング模型で、縦磁場を読み取るプロトコルである。手順はまず、低温下での熱平衡状態に対し、1次元鎖の端のスピンの読み出しを行う。すると、その影響が次々と横のスピンに伝搬していき、その結果ある時刻ではGHZ状態に非常に近い状態が生成される。この状態を縦磁場にさらして一定時間だけ発展させると、縦磁場の情報が位相としてスピン鎖に記録される。そのあと、縦磁場をオフにしてさらに時間発展をさせ、再び端のスピンを読み出す。これを繰り返す手法を用いると、古典センサよりも良い感度が得られることが数値的にわかった。 (ii)全結合のイジング模型について断熱操作を行ってGHZ状態を生成し、センシングを行うプロトコルを提案した。横磁場を無限からゼロへの断熱変化させると、横磁場ゼロの基底状態としてGHZ状態が生成される。新しい点としては上記(i)のアイデアを使って、ターゲット磁場の位相情報を獲得後にスピンの状態を変化させて、読み出しが容易な状態にすることである。この手法ではハイゼンベルク限界の感度が得られることが解析的にすぐにわかる。さらに、現実に近づけたセットアップでもハイゼンベルク限界の感度が達成できることを解析的に証明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画に含まれていた、ノイズ存在下における量子情報処理の基礎付けに関する研究については、1年間を通して3通りのアプローチをしたが、断片的な成果のみ得られた。 一方で量子情報処理の応用面では、マクロに異なる状態の重ね合わせを量子センシングに用いたケースを考え、センサー状態の準備の方法と読み出しが完全に異なる二つの研究に携わり、一定の成果が得られた。それぞれの手法で得られるセンサの感度を調べ、古典センサを上回る性能が得られることを示すことができ、論文が出せたのでおおむね順調と考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後も基礎づけの研究に触れつつも、具体的な実験系を考慮した研究を行っていく予定である。たとえば受け入れ研究機関である産総研が世界一の技術を持つ、ダイヤモンド中の窒素空孔中心を舞台とした物理系で行う量子情報処理や、受け入れ研究者が得意とする、超伝導磁束量子ビットとスピン集団のハイブリッド系を扱った研究を進めていきたい。前者の系では、窒素空孔中心同士の距離がまばらでお互いの相互作用がセンシングに影響を及ぼすが、その性質をむしろ有効活用できないか検討する予定である。後者の系では、超伝導磁束量子ビットによる繰り返し測定でスピン集団中に指数関数的にたくさんの状態が混合された猫状態を生成する手法を提案するつもりである。
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