大型底生有孔虫(LBF)・共生藻・共生細菌の三者共生系を、物質供給と環境ストレス耐性の観点から明らかにするために、1)LBFにおける分解酵素生産者の解明、2)高温・強光条件下での共生微生物群集の変化の検証を行うものである。今年度は昨年度までに実施した調査結果の解析を実施した。なお、褐虫藻はサンゴなどに共生する渦鞭毛藻である。 これまでの解析から、褐虫藻を共生させているSoritinae亜科の有孔虫は、サンゴ礁の浅い礁地では多様性に乏しい褐虫藻組成を示した。しかし、外洋に面する礁斜面より深い深度(>9 m)に生息する有孔虫はより多様で礁地では見られない褐虫藻を主とする組成を示した。浅い礁地での多様性に乏しい褐虫藻組成は、1)沖縄島10地点および久米島、2)無性生殖個体(親個体から直接褐虫藻を受け継ぐ)でも有性生殖個体(環境中から褐虫藻を取り込む可能性が高い)でも共通であった。したがって、光量、水温、塩分などの変動が大きな浅い礁地に特化した褐虫藻組成に収束している可能性がある。 また、無性生殖個体を用いて水温や光条件を操作した実験により、LBFは環境条件に適応して細胞内の褐虫藻組成を変化させることが示唆された。しかし、環境中から新たな褐虫藻を取り込むのではなく既存の褐虫藻の割合を変化させている可能性が高い。 また、LBFの集団遺伝解析から、浅い礁地では礁斜面よりも遺伝的多様性が低い可能性が提示された。浅い礁地が地形的に外洋から隔離されやすく外部からの流入が制限されること以外に、礁地と礁斜面以深では、無性生殖と有性生殖の頻度が異なっている可能性もある。 LBF表層の微生物網羅的解析から、藍藻類のほか、色素などの生産を行う微生物が大きな割合を占めることが明らかになった。今後はこれらの微生物が生産する物質が直接的にLBFへ利益をもたらしているのかを明らかにする必要がある。
|