研究課題/領域番号 |
21J01671
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
飯島 真理子 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 地質調査総合センター, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | サンゴ / 骨格形成 / 陸域負荷 / 底質 / 蓄積型栄養塩 |
研究実績の概要 |
本課題は,これまでに明らかにしてきたサンゴ稚ポリプの骨格形成をリン酸塩が直接阻害すること,石灰質の底質にリン酸塩が吸着し,蓄積している蓄積型栄養塩という知見を元に,「陸域負荷がサンゴの生育に及ぼす影響の実態解明」を目的とし,[研究課題1]リン酸塩が稚サンゴの骨格形成に及ぼす影響の分子機構の解明,[研究課題2]蓄積型栄養塩をはじめとする陸域負荷のより詳細な実態解明,[研究課題3]底質に含まれる稚サンゴに対して急性毒性を有する物質の探索などの分析の3課題を実施する。 1年目に行った実験の結果から,サンゴ稚ポリプ飼育実験の条件追加及び変更を行い,追再実験を行った。沖縄県本島の市街地や農地が多く,地下水や河川などの陸域負荷が大きいと想定される地点や比較的人口の少ない陸域負荷が小さいと想定されるさまざまな沿岸域で採取した石灰質の底質の蓄積型栄養塩の測定を行い,陸域負荷の大きい地点で非常に高濃度のリン酸塩が吸着していることが明らかになった。蓄積型栄養塩の濃度が高い地点の底質共存下でサンゴ稚ポリプを飼育すると,骨格形成が阻害され,生残率が低下した。さらに実施したサンゴ稚ポリプの飼育実験により,形態観察では確認できなかったリン酸塩の発現遺伝子への影響や石灰質の底質から溶出してきた銅や亜鉛,アルミニウムや鉄などの急性毒性物質を及ぼす可能性がある物質が明らかになってきている。これらの金属のいくつかはリン酸塩と同様に炭酸カルシウムに吸着しやすく,石灰質の底質に蓄積していた。地下水や河川水も採取しており,これまで検出されたサンゴへ影響を及ぼす物質の起源の探索を今後行っていくことを検討している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
海域への陸域負荷の実態を明らかにするため,沖縄県本島の市街地や農地が多く,地下水や河川などの陸域負荷が大きいと想定される地点や比較的人口の少ない陸域負荷が小さいと想定されるさまざまな沿岸域で採取した石灰質の底質に吸着したリン酸塩濃度(蓄積型栄養塩)の調査を行った。各地点の底質と海水を採取し,乾燥・篩分けした後に,海水と共にチューブに入れてリン酸塩を溶出させ,底質の表面に吸着したリン酸塩を調べたところ,地下水や河川などの流入がある陸域負荷の大きいと想定される地点で特に蓄積型栄養塩の濃度が高くなった。また底質溶出液の金属分析をICP-MSにより行ったところ,沖縄県沿岸域の底質には銅や亜鉛,アルミニウムや鉄などの重金属が多く含まれていた。リン酸塩同様に銅や亜鉛などは炭酸カルシウムに対して高い吸着性を有することから,リン酸塩だけでなく重金属も石灰質の底質に吸着・蓄積していることが明らかになった。サンゴの飼育実験を行ったところ,採取した地点により,サンゴ稚ポリプの生残率が大きく異なっていた。生残率が大きく低下した沖縄県の大度海岸や具志頭の底質にはリン酸塩も高濃度吸着していたが,銅や亜鉛,アルミニウムや鉄などが多く含まれていた。リン酸塩だけではこのような生残率低下にはつながりにくいことから,これらの重金属が生残率に大きく影響していることが考えられる。また発現遺伝子を解析することで,骨格の形態観察だけでは確認できなかったリン酸塩による影響を検証するために,野外調査及び室内飼育実験で得られたサンゴ稚ポリプサンプルのRNAを抽出,網羅的遺伝子解析(RNA-seq)の条件検討を行った。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では「陸域負荷がサンゴの生育に及ぼす影響の実態解明」を目的とし,1)リン酸塩が稚サンゴの骨格形成に及ぼす影響の分子機構の解明,2)蓄積型栄養塩の実態解明,3)底質に含まれる稚サンゴに対して毒性を有する物質の探索の3項目を実施する。 これまでの1・2年目に行った実験結果から,必要に応じて飼育条件や抽出条件の追加・変更を行い,追再実験を実施するとともにデータ解析及びとりまとめを行っていく。飼育実験に用いるサンゴ幼生は,沖縄県の琉球大学瀬底研究施設で産卵させ,プラヌラ幼生になるまで飼育する。プラヌラ幼生は飼育実験を行う神奈川県の北里大学に輸送し,飼育・サンプル採取を実施する。蓄積型栄養塩の地域間比較や重金属などの急性毒性を有する物質,遺伝子解析については,1,2年目に行った実験と採取した地点の分析結果を踏まえて,底質・海水・地下水・海底湧水・河川水のサンプリングや分析を行う。採取地点は沖縄本島の市街地や農地が比較的多い,八重瀬町港川,米須,玻名城などの南部沿岸域,比較的人口密度が少ない瀬底島,備瀬などの本部沿岸域等で分析結果を踏まえて実施していく。また急性毒性の可能性のある物質の稚ポリプ毒性試験の条件追加及び変更し,追再実験を行う。石灰質の底質から海水に溶出した物質として銅や亜鉛などの金属が検出されており,これらの地域間比較やサンゴ稚ポリプへの影響評価を行って急性毒性評価や慢性毒性評価も実施し,どの程度の濃度で影響があるか評価し,さらに遺伝子解析も行い骨格形成以外の影響評価も行う。また地下水や河川水の分析結果とあわせてリンや金属等の物質の起源について調査,必要があればサンプル採取等を行う。これら飼育実験を行ったサンゴ稚ポリプ骨格は重量測定を行なった後に,電子顕微鏡やマイクロCT スキャンで骨格の形態観察を行い,蓄積型栄養塩や重金属が骨格形成に及ぼす影響のより詳細な評価を行う。
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