本課題は,これまでに明らかにしてきたサンゴ稚ポリプの骨格形成をリン酸塩が直接阻害すること,石灰質の底質にリン酸塩が吸着し,蓄積している蓄積型栄養塩という知見を元に,「陸域負荷がサンゴの生育に及ぼす影響の実態解明」を目的とし,[研究課題1]リン酸塩が稚サンゴの骨格形成に及ぼす影響の分子機構の解明,[研究課題2]蓄積型栄養塩をはじめとする陸域負荷のより詳細な実態解明,[研究課題3]底質に含まれる稚サンゴに対して急性毒性を有する物質の探索などの分析の3課題を実施した。 沖縄県本島の市街地や農地が多く,地下水・湧水や河川などの陸域負荷が大きいと想定される地点や比較的人口の少ない陸域負荷が小さいと想定されるさまざまな沿岸域で採取した石灰質の底質に吸着している蓄積型栄養塩の測定を行い,陸域負荷の大きい地点で非常に高濃度のリン酸塩が吸着・蓄積していることが明らかになった。底質を用いたサンゴ稚ポリプ飼育実験では,蓄積型栄養塩の濃度が高い地点の底質共存下で飼育すると骨格形成が阻害され,生残率が低下した。また飼育実験により,形態観察では影響が確認できなかった低濃度においてRNA-seq解析でリン酸塩負荷による発現遺伝子への影響が見られた。石灰質の底質から溶出してきた銅や亜鉛,アルミニウムや鉄などの急性毒性物質を及ぼす可能性がある物質について,サンゴ稚ポリプへの添加実験を行い慢性毒性の影響が見られた。 本課題により明らかになったサンゴへ影響を及ぼす物質の起源の探索を行うことで陸域負荷低減対策の一助となるであろう。
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