研究課題/領域番号 |
22J01141
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 大学共同利用機関法人自然科学研究機構(岡崎共通研究施設) |
研究代表者 |
小林 稜平 大学共同利用機関法人自然科学研究機構(岡崎共通研究施設), 計算科学研究センター, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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キーワード | FoF1-ATP合成酵素 / F1-ATPase / IF1 / Inhibitory factor 1 / 回転分子モーター / 分子動力学シミュレーション / タンパク質デザイン |
研究実績の概要 |
本年度は(1) 他のF1構造と比較したときのIF1阻害状態F1構造の特徴の明示、(2) IF1阻害状態F1構造を用いたシミュレーション系の構築、および(3)「IF1の一方向制御」という性質に寄与するアミノ酸・相互作用の特定を目標に研究に取り組んだ。 (1)については、主成分分析による固定子αβの構造状態の解析や回転子γサブユニットの回転角度の計算によって、IF1阻害状態F1構造が他のF1構造と質的に異なる構造であることを解明した。(2)については、所属グループによって開発された系を改変することで、IF1結合型F1の回転子γサブユニットを強制回転させる系の構築に成功した。研究代表者の過去の研究では、IF1阻害状態の解放には120度以上の大きな回転が必要であることが示されている。これを反映するために、異なる基質結合状態にある3つの触媒サブユニットβの1箇所にのみIF1が結合した系をそれぞれ準備して、合計3つの系を用いて計算機実験を行った。回転子γサブユニットの回転方向・角度によって違いが出ることを期待したが、(3)の解明につながる明確な違いは観察できなかった。 追加の課題として、当初の予定では次年度の課題として計画されていた、(4)「IF1の種特異的制御」に関する研究も開始した。まず、バクテリア型F1(TF1)の構造とミトコンドリア型F1(bMF1)の構造を比較することで、TF1上にIF1を配置した構造を得た。bMF1-IF1構造とTF1-IF1構造に対して、それぞれ分子動力学シミュレーション、結合自由エネルギー計算を行った結果、bMF1-IF1複合体構造の安定化に寄与しているアミノ酸相互作用がTF1-IF1構造では形成されないことがわかった。つまり、TF1阻害型IF1を作成する際にも、それらの相互作用の形成を重視すればよいという指針が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の目標は、(1) IF1阻害状態F1構造の特徴の明示、(2) IF1阻害状態F1構造を用いたシミュレーション系の構築、および(3)「IF1の一方向制御」という性質に寄与するアミノ酸・相互作用の特定であった。 (1)に関しては、研究代表者がIF1の計算研究を進めていく上で比較対象となる土台が得られたと言える。(2)に関しては、研究代表者が計算研究を始めるにあたり、基礎を学びつつ自身の研究を遂行できており、さまざまな解析を身につけたことは大きな進歩といえよう。(3)についてはいまだ結果が得られていないものの、初年度の研究から今後の研究指針が得られており、次年度以降の結果が期待できる。また、当初次年度に計画されていた(4)「IF1の種特異的制御」についても興味深い結果が得られている。これについては次年度以降本格的に研究を開始する予定である。 以上より、全体としてほぼ順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
「IF1の一方向制御」の課題については、回転子γの強制回転によって触媒サブユニットβの構造変化が誘引できるかが大きな課題である。これを実現するために、強制回転の速度を下げたり、拘束に必要なパラメータを改良したりすることが第一案である。それだけでなく、アンブレラサンプリング法のような高いエネルギー障壁を超えて反応を誘起できるような手法を取り入れることも考えている。 「IF1の種特異的制御」の課題については、近年開発されたAlphaFold2などのタンパク質構造予測ツールの導入を予定している。一般にそれらのツールでは大量の候補構造・配列が得られるが、その選別に天然の酵素-阻害剤の解析が鍵になるだろう。つまり、本研究はIF1をベースとしたペプチドの作成を念頭に置いており、野生型F1-IF1に現れる重要相互作用を維持したペプチドの作成を目指している。初年度で得られた結果をもとに候補配列の選定まで進め、基礎的な生化学実験での実証まで行いたいと考えている。
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備考 |
2件はそれぞれ東京大学・分子科学研究所からのプレスリリースである。
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