研究課題/領域番号 |
20J00505
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
高島 勇介 筑波大学, 生命環境系, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | 細胞内共生 / Mortierella / 有性生殖 / 集団遺伝学 / Simple Sequence Repeat / 菌類ゲノム / バクテリアゲノム / β-カロテン |
研究実績の概要 |
本年度はMortierella sugadairanaおよび異なる有性生殖様式を持つ姉妹種M. parvisporaの2種の菌株を収集し,集団遺伝構造解析を行う予定であった.しかし,コロナ禍のため,計画通りに対象菌類の収集を行うことができなかった.そのため,Simple Sequence Repeat(SSR)遺伝子座マーカーの設計を優先的に行った.その際,これら2種の両方に適用可能なマーカーを作成するために3年目に行う予定であったリシーケンス解析の一部として,M. sugadairana YTM39株のゲノム解析を前倒し的に行った.得られたYTM39株および既に保有していたM. parvispora E1425株のゲノム配列を用いて,マーカーを探索し,両ゲノムに存在すると考えられる106のSSR遺伝子座を増幅するためのプライマーセットを設計した.また,副産物としてYTM39株の内生細菌ゲノムも得られた.そのゲノムの遺伝子アノテーションを行った結果,YTM39株の内生細菌は,カロテン合成系の遺伝子をコードしていることが明らかになった.βカロテンは宿主の生殖フェロモンの前駆体であり,この内生細菌がβカロテンを生合成または分解することで宿主の有性生殖を阻害する可能性が示唆された. 2年目は1年目に十分に行うことができなかった集団遺伝構造解析および菌株収集に早急に着手する.また,宿主菌類のβカロテン蓄積量を定量し,内生細菌の保有の有無が生殖フェロモン産生に影響しているのか,内生細菌がβカロテン生産を宿主菌の代わりに担っているか,および宿主菌のカロテン合成関連遺伝子が正常に機能しているのかについても検証する必要がある.これらの情報は,3年目に実施予定である内生細菌による宿主の生殖阻害に関連した一塩基多型の検出および比較解析を行う際の候補遺伝子として有望だと考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,Mortierella sugadairanaおよびM. parvisporaの菌株を収集し,集団遺伝構造解析を行う予定であった.しかし,コロナ禍のため,計画通りに対象菌類の収集ができなかった.そのため,Simple Sequence Repeat(SSR)遺伝子座マーカーの設計を優先的に行った.当初,マーカー探索にM. parvispora E1425株のゲノム配列の利用を検討していたが,このゲノムを参照配列としてM. sugadairana YTM39株の遺伝子発現解析を行った結果,リードがよくマッピングされず,これら2種のゲノムが類似していない可能性があった.そのため両種に適用可能なマーカー設計のために,3年目に行う予定であったリシーケンス解析の一部として,YTM39株のゲノム解析を前倒し的に行った.その結果,宿主菌類ゲノムおよび内生細菌ゲノムの塩基配列決定に成功した.YTM39株の菌類ゲノム配列を用いてマーカーを探索し,YTM39株およびE1425株の両ゲノムに存在すると考えられる106のSSR遺伝子座を増幅するためのプライマーセットを設計した.さらに,YTM39株の内生細菌ゲノムの遺伝子アノテーションより,この内生細菌は,カロテン合成系の遺伝子をコードすることが明らかになった.βカロテンは宿主の生殖フェロモンの前駆体であり,内生細菌がβカロテンを生合成または分解することで宿主の有性生殖を阻害する可能性が示唆された. 対象菌類の収集および集団遺伝構造解析の結果は得られなかったが,前倒しで行ったゲノム解析により,解析に適したSSR遺伝子座の選抜を行うことができた.また,副産物として内生細菌ゲノムの決定に成功し,予想外なことに内生細菌が宿主菌類のカロテン合成に関与するという新しい可能性を見出した.以上より,総合的にはおおむね順調に進展していると考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
1年目に十分に行うことができなかった集団遺伝構造解析に早急に着手する.保有するM. sugadairana 3菌株およびM. parvispora 5菌株の計8菌株を用いて,設計したSSR遺伝子座マーカーの有効性を検証することにより,本解析に用いるSSR遺伝子座マーカーをさらに選抜する.また,菌株収集は,1年目は4月以降の県境を跨いだ移動の自粛により,6月末まで自宅から研究室のある長野県への移動が制限され,研究に中断期間が生じ,実験を開始する上で,菌株整理および管理体制の立て直しの必要性が生じてしまった.そのような状況の中でも上信越地域を中心に土壌試料の採集を行い,2020年1月から11月にかけて計123地点より土壌試料を採集し,そのうち,47試料について湿室培養法による菌類の分離を行うことができた.しかし,今のところ,分離に供したすべての土壌試料より対象菌類の分離に成功していない.これは分離の際の温度が室温で適していなかったことが原因として考えられるため,今後は低温条件での分離培養に切り替える. 副産物として得られたYTM39株の内生細菌のゲノム解析より,この内生細菌が,宿主菌の細胞内でβカロテンを生合成または分解することで宿主の有性生殖を阻害している可能性が示唆された.今後,宿主菌類のβカロテン蓄積量を定量し,内生細菌の保有の有無が宿主菌の生殖フェロモン産生に影響しているのか,内生細菌がβカロテン合成を宿主菌の代わりに担っているか,および宿主のカロテン合成関連遺伝子が正常に機能しているのかについても検証する.これらの情報は,3年目に実施予定である内生細菌による宿主菌類の生殖阻害に関連した一塩基多型の検出および比較解析を行う際の候補遺伝子として有望である可能性がある.
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