本研究は,有性生殖を阻害する内生細菌保有の有無に関連する宿主菌類の遺伝子変異の特定を目指している.昨年度は参照菌類ゲノムに対して,ショートリードをマッピングし,宿主菌類の遺伝子変異の探索を検討したが,同種または近縁種であると想定していた分離株から得られたショートリードの参照菌類ゲノムへのマッピング率が低かったことから断念した.本年度は,異なるアプローチとして,細菌保有株および非保有株の菌類ゲノムを対象に比較ゲノム解析を行い,特に菌類側のカロテン合成関連遺伝子について内生細菌の有無に関連した遺伝子変異の検出を目指した.細菌保有株の菌類ゲノム構築のため,カロテン合成関連遺伝子が確認されているBurkholderiaceae sp. YTM39s3EBに近縁な内生細菌を保有する8菌株についてナノポアシーケンスを行った.得られたナノポアロングリードおよび昨年度取得したショートリードを用いて,Masurcaによるハイブリットアセンブリまたはその過程で得られるショートリードにより校正されたロングリードを用いたmetaflyeによるアセンブリを行うことにより,菌類ゲノムの構築を行った.その結果,計8菌株について20-26コンティグ(約42-45 Mbp)からなる菌類ゲノム配列が得られた.また,解析した8菌株中7菌株について,metaflyeを用いたアセンブリ結果より,環状の完全長バクテリアゲノムと推定されるコンティグが,宿主菌類リードの除去といった工程を経ずに構築することができた.本年度は所属変更に伴う研究・解析環境の構築および研究材料を現所属へ寄託する手続きに時間を要したことから細菌非保有株の菌類ゲノム構築はできなかった.しかし,難易度が高い内生細菌保有株の菌類ゲノムが構築できたことから,内生細菌保有の有無に関連した宿主菌類の分子生態学的な比較を行う研究基盤が構築できたと考えている.
|